マンデヴィル「東方旅行記」

ひつじ話

カタイから大小のインドへむかう人はカディルヘと呼ばれる、大きな王国を通りぬけるだろう。そこには、ひょうたんのように大きな果実がなり、熟したものを割ると、中に肉も血も骨もある獣が一匹はいっている、それはまるで毛のない子羊みたいである。その国の住民はこの獣も果実も食用とするが、まことにふしぎなことである。

14世紀に著された架空の旅行案内記、マンデヴィルの「東方旅行記」第29章「カタイ国の彼方にある国々や島々。ふしぎな果実。山の中にとじこめられたユダヤ族。怪鳥グリフィンの話」の冒頭に、植物羊の話があります。前にご紹介した植物羊二態のひとつめの絵のほうですね。
架空の旅行記なので、多くの典拠が存在します。それについては翻訳者による解説で説明されていますので、下に。

その主要な出典は、1264年に没したフランスの学者ボヴェのヴァンサン Vincent of Beauvais の百科事典
である。この膨大な著作は『世界の鏡』 Speculum Mundi と題され、自然 Naturale と教義 Doctrinale と歴史 Historiale と道徳 Morale の四部から成っていた。そのうちマンデヴィルが利用したのは、自然の鏡 Specullum Naturale と歴史の鏡 Speculum Historiale であった。 (略)
マンデヴィルの典拠として、つぎに最も重要なのは、ポルデノネの修道士オドリコ(またはオデリコ) Friar Odoric of Pordenone の『東洋紀行』 Descriptio Orientalium Partium であった。 (略) 東方旅行記の大半は、時にそっくりそのまま、オドリコから借用したものである。あまりに共通点が多すぎるので、ある時期には、ふたりはいっしょに旅行したとも信じられた。

ヴァンサンにもオドリコにも、植物羊についての言及があります。ヴァンサンのほうは、臍で地面につながっているタイプのようですが。二態のふたつめの絵ですね。
関連情報として、レオ・レオーニ「平行植物」タカワラビ「ぷよぷよ通」ボルヘス「幻獣辞典」を、以前にご紹介しています。

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宮中に来たひつじたち

ひつじ話

羊は古くは推古天皇七年(599)九月、百済から二頭が来たと『日本書紀』に記され、平安時代にもしばしば朝鮮半島や中国大陸から渡来している。性質が穏和で小柄なため航海に耐えたからであろう。多くは宮中に進献され飼われたようだが、その末期には一見後に返却された場合がみられる。
『百練抄』には、「承安元年(1171)平清盛が院の御所に羊五頭をつれて来たが、三か月ほどで返却された。これは近ごろ流行病があって人びとはこれを羊病と呼んだ。それは仙洞御所に三頭羊を飼っているためだと噂されたからである」と記されている。
果たして羊が病気を媒介したか否かはともかく、羊が渡来するのと時を同じくして人の往来や貿易のはげしくなった大陸から病気がもちこまれたことは確かであろう。

・・・・あとの二頭はどうなったんでしょうか。

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「バラエティもーにん」

ひつじグッズ

「バラエティもーにん」

竹本泉のコミックス「バラエティもーにん」の1巻から、なぜか居間に集うひつじたちを。
竹本泉のマンガは、理解可能なものから不可能なものまでいろんな生き物が百出ですが、思えばひつじは見かけたことがないかもです。意外。

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善き羊飼い

ひつじ話

善き羊飼い 
この彫像や他の同類の作品は、元々は石棺の角を装飾する高浮彫りとしてつくられたか(その後18世紀に再加工される)、あるいは稀少なケースとして、テーブルなどの脚部として制作されたのではないかと推測されている。
この複合的作品は、自然主義スタイルでつくられているものの、その象徴的価値をはっきりと感じとることができる。事実、この羊飼いの像は、信者たちの群れの救い主としてみなされていたキリストを想起させる。
この作品の図像形態は、元来ギリシア・アルカイック時代において、「クリオフォロイ(供物の子羊を担ぐ男)」として知られた一連の彫刻から発生し、ヘレニズム時代とローマ時代には、供儀の場面や牧歌的情景描写のなかに登場した。そして、最後に初期キリスト教美術において、福音書や初期のキリスト教文書の多くの章句から引き出された、明確な解釈を与えられることになったのである。

ピウス・キリスト教美術館所蔵、3世紀末から4世紀初めの彫像です。前にご紹介した望月通陽氏の作品は、こうしたところからイメージを得られたものでしょうか。

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ヒツジを描いて2セントもらう

ひつじ画像・映像

 アマゾンは10月26日,マイクロソフト主催の次世代Webアプリケーション開発カンファレンス「REMIX Tokyo」のビジネストラックで,米国で先行しているサービス「Amazon Mechanical Turk(アマゾン メカニカルターク)」を紹介した。このサービスは,コンピュータよりも人間がやった方がうまくいく仕事をWeb掲示板に掲出し,仕事の依頼人と請負人を仲介する,というもの。モノの流通ではなく,知恵の流通という新機軸を打ち出したところが注目される。
(略)
 出色なのが「左を向いた羊の絵を描けば,2セント」という仕事である。この「The Sheep Market」というサイトは,夜,眠れない人が訪れ,左向きの羊を描いてから,他の人が描いた羊の数を数えるという趣向になっている。「最後まで数え切らないうちに必ず眠れる」と古屋氏は請合う。

The Sheep Market
The Sheep Marketですが、わりと羊に見えるものからどう見ても羊でないものまで取り揃っておりました。いちまんびきですよ。
……ヤギが混じっていたり犬が混じっていたり大変です。

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羊のロデオ

ひつじを見にいく

羊のロデオ
「馬」や「牛」のロデオは、見たり聞いたりしたことがあるかもしれないけど、この秋マザー牧場では「羊」のロデオをご紹介♪臆病な羊たちが、はたしてどんな動きをみせるのか!?乞うご期待!!会場では勇気あるチャレンジャーも募集しちゃうよ。
また、牧羊犬を使って羊を追い込む「シープドッグトライアル」の人間バージョン「シープマントライアル」も同時開催。4人1組のチームになって5頭の羊を決められたエリアに誘導しよう。
人の力は牧羊犬をこえられる???いざチャレンジ!!
開催日  9/16・17・23・24・30、10/8・9・14、11/3・11・12・18・19・25・26
時 間  ?12:45 ?14:15

羊のロデオ大会
疾走する羊の背中から転げ落ちる4歳の男の子。カナダ・エドモントンで開かれた“羊のロデオ大会”でのひとこま。「助けて!」の悲鳴が聞こえてきそうだが、助けてほしいのは羊の方?

動きません
羊がおとなしいので、シープドッグを呼んでびびらせます。かなり、笑える構図です。
落ちる
右上の写真から、時計回りにご覧下さい。

羊ロデオ

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エジプトの神 アモン・ラー

ひつじ話

アモン・ラー
 中王国から新王国の時代にかけてエジプトの都がテーベになると、ラーはこの町の神だったアモンと同一視されて、アモン・ラーと呼ばれ、雄羊の頭を持つ姿でも表されるようになる。カルナクの有名なアモン・ラーの大神殿の参道に並べられた雄羊の頭のスピンクスの列は、各々がアモン・ラーを表わしその霊を宿すと見なされていた。

 本来はテーベの地方神に過ぎなかったが、第12王朝がテーベを首都として統一王国を作った時に、全国へと崇拝が広まった。ヘリオポリスの最高太陽神レー(ラー)と融合され「アモン・ラー」と呼ばれ神々の王とされた。「見えざる者」の名の通り、神々の前にさえ姿を見せず、シューに懇願されたときでさえ雄羊の毛皮と頭をかぶった変装した姿で現われている。(略)
 はじめは羊頭の神として表されたが、中王国以後は一対の長い羽飾りを頭に載せ、顎鬚を垂らした人間として表された。聖獣は雄羊とナイルの鵞鳥。

羊頭のスフィンクスは以前紹介しましたが、そのアモン・ラー神。
なんで微妙にヘンな格好なんでしょうか。

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羊頭形のアッティカ赤像式リュトン

ひつじ話

羊頭形リュトン
リュトンとは、動物の湾曲した角に想を得てつくられた杯で、当時、おそらく実際に飲酒のために使用されていたらしい。アッティカ製の陶器のリュトンの形は、先端部がサティロスか動物の頭部の形につくられている。 (略) 一説では、牡羊はオデュッセウスのポリュフェモスの洞窟からの逃亡を想起させ、酒にまつわる魂の救済のテーマが風刺的なかたちで示されているという。 というのも、神話の英雄オデュッセウスとその仲間は、酩酊して目が見えなくなった巨人キュクロプスの洞窟から牡羊の腹の下にしがみついて逃走したからである。

前5世紀の酒杯です。グレゴリウス・エトルリア美術館所蔵。もともと角なので、置けません。ちなみに、オデュッセウスの逃亡というのは、以前お話ししたこれのことかと。

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「論衡」物勢篇

ひつじ話

あるひとはいう―寅は木であって、それにあたる獣は虎である。戌は土であって、それにあたる獣は犬である。丑も未もまた土であって、丑にあたる獣は牛、未にあたる獣は羊である。木は土に勝つがゆえに、犬・牛・羊は虎に征服されるのだ。 (略)
その答はこうだ。もしも論者のいうとおりだとすれば、血の通っている動物は、たがいに勝てないという証拠もたつ。 (略)
亥は豕、未は羊、丑は牛である。土が水に勝つならば、牛や羊はなんで豕を殺さないのか

後漢の頃、王充によって著された「論衡」は、万物にツッコミをいれまくった元祖懐疑論な書物ですが、「物」の本質について語った「物勢篇」では、五行説に対して愉快な批判がなされています。なんで豕を殺さないのか・・・。
なお、注釈にも興味深い一文がありましたので、下に。

郭沫若の『甲骨文字研究』(「釈支干」)によれば、十二支を獣にあてはめたのは『論衡』の記事が最初だが、それはインド・バビロニア・エジプトで行われており、前漢時代にバビロニアのものが西域諸国を経て伝わったらしいという。

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羊神判

ひつじ話

その神判のしかたは、『墨子』の「明鬼」篇(下)に、その例がしるされている。
むかし、斉の荘君の臣に、王里国、中里キョウとよばれるものがいたが、この二人が訴訟で争うて、三年しても決着がつかなかった。斉君は、確証のない嫌疑だけでは裁定しかねるので、羊神判を行うことにした。そこで各自に羊一頭ずつを提供させて、斉の神社で盟いをさせ、羊の頸血を社壇にそそがせた。王里国が神への陳述をよみあげてよみ終るまで、なんらの異常もなかった。ところが中里キョウがその辞をよみ進めて、まだ終らぬうちに、羊がおきあがって中里キョウにふれ、社殿におどりあがって、盟所にたおれた。
これで、中里キョウの敗訴が決定した。 (略)
この解タイといわれる神羊は、古い伝承によると、むかし刑法を定めた皐陶が、獄訟を裁くときに用いたもので、その性は不直なるものを識別する能力があり、神判では不直なるものに触れてそれを知らせるという。『墨子』のしるすところとも一致しており、皐陶を裁判神とする伝承もあったのであろう。皐陶は羌族の祖神で、羌族は牧羊族であった。羊神判は、古くこの牧羊族が伝えていたものかも知れない。

白川静による古代中国文化論に、羊による裁判が紹介されています。

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「試験に出るパズル」のミニパズル

ひつじ話

講談社ノベルズ「試験に出るパズル」折り返し部分

高田崇史の「試験に出るパズル」、講談社ノベルズ版の表紙折り返し部分に、可愛いミニパズルがついてます。
このとっかかりの可愛さにだまされて、ほのぼの日常系ミステリだと信じて読み始めたら、小説の皮をかぶったパズルでした。ひー。あと、自分が間違ってくやしいので、答えはナイショです。同書をご覧の機会にどうかお確かめください。うう。
この情報は、カーター卿さんからいただきました。ありがとうございます。

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フンコロガシにも「食の好み」と、イグ・ノーベル栄養学賞

ひつじ春夏秋冬

──「笑えるとしか言いようがなく、しかも記憶に残り、人々を考えさせる業績」に贈られる毎年恒例のイグ・ノーベル賞の第16回授賞式が5日、米ハーバード大学サンダース・シアターであり、「フンコロガシの食の好み」について調査した研究が、栄養学賞を受賞した。
○栄養学賞:「フンコロガシの食嗜好(しこう)についての研究」で、クウェート大学のワスミア・アルフティ氏と、クウェート環境公衆局のファテン・アルムッサーラム氏に授与。2氏は、動物の糞を食物とするフンコロガシの食嗜好について調査し、フンコロガシが肉食動物よりも草食動物の糞を好み、草食動物の中でも、馬が一番で、続いて羊、ラクダの糞の順に好みがあることを突き止めた。

栄誉なのかどうかわかりませんが羊は二番目です。

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対羊文透彫飾金具

ひつじ話

対羊文透彫飾金具
中国西北辺の文化に属する遺品であるが、文飾の形態は、戦国・漢の動物意匠とは異なる。4世紀以後の作であろう。所々にある円形の突起は、もとは、玉石を嵌めこむための造形であったが、この時期にはすでに象嵌することはすたれ、突起そのものが装飾として残っている。獣面をはさんで有角の羊が向いあうこのような対称的な図柄は、やはり西方起源のものである。大巾の皮帯に着けた飾金具であろう。

大阪市立美術館所蔵の、六朝の工芸品です。
羊が向かいあう図柄については、前にこちらで少し触れています。

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島田元旦「黄初平図」

ひつじ話

島田元旦「黄初平図」

江戸期の画家島田元旦による「黄初平図」です。西洋絵画の技法が使われているのが見所。黄初平図は円山応挙のものを以前ご紹介したことがありますが、この応挙のもとで学んでもいます。

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【あざらし日和の旅日記】 深川市郊外にて

ひつじ春夏秋冬

野良風の羊くんが3匹
 さてと、あとは深川辺りで遅い昼食をとって、岩見沢の「メープルロッジ」で取材をしたら今回の予定は無事完了。ふひゅー、おいらには取材の神様がついてるぜー。にゃははのはー。
 と、深川市郊外の丘の上に建つ素敵(すてき)なレストランで、ティータイムを楽しむマダムたちを横目に食事をしていると、にゃにゃにゃにゃにゃ!
 野良風の羊くんが3匹、駐車場の方からやって来て窓の下をのそのそ歩いているでないの。
 「ひ、羊だ。野良か…?」
 慣れた調子でテラスの木柵(さく)に体や尻をこすりつけては「かゆい時はこうすると気持ちいいんだよねー」などと、くつろいでいるところを見ると、多分ここの飼い羊なんだろーけど、ひもを首から引きずっているあたりは近所の羊が脱走してきたようにも見えるわけで、なんにせよ絶好のシャッターチャンス。
 取材の神様は最後までサプライズを用意してくれるのねん。
 と、ティーポット中の紅茶を飲み干すのももどかしく、駐車場へとダッシュ。車中からカメラバッグを取り出して、さぁ、野良風羊たちを撮りまくるぜ、と駆け出したいところだけど、羊くんたちを驚かせてはいけないので、ベリースマイリーに接近すると、おっ、遊んでくれるのかいな、この人。ってんで、羊くんたちの方から近寄ってきて、ひっぱる、擦り寄る、かじる、と予想外にフレンドリーなもてなしをしてくれたのです。

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