十四世紀の初頭に北イタリアの都市国家(コムーネ)パドヴァの古代闘技場(アレーナ)跡地にエンリーコ・スクロヴェーニが建立したサンタ・マリア・デラ・カリタ聖堂通称スクロヴェーニ礼拝堂は、ジョットによる壁画装飾によってあまねく知られている。聖母マリアと救世主イエス・キリストの生涯をめぐるその三十八面の連作が、ヨーロッパ中世絵画のもっとも偉大な達成のひとつをしるしているからである。
(略)
ヨアキムの夢
※テキスト
するとヨアキムはうつぶせに倒れ、朝の六時から夕方までその姿で伏していた。そこへ彼のしもべや雇人たちがやって来、なぜそんな様子をしているのかわからず、自殺しようとしているのかと思って恐怖にとらわれた。彼らはそばに近づき、苦労して地面から起こした。そして主人が目にしたという幻影について聞かされると、極度に驚愕して、それならすぐさま天使の命令に従い、奥さまのもとに急いで帰るようにと勧めた。(略)
偽マタイ伝
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※デスクリプション
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彼らの前の斜面や亀裂部には、(略)五匹の羊が白と黒と交互しながら縦列に配置され、とりどりののんびりしたポーズによって場面の緊迫感をやわらげる。その中でヨアキムと向かい合った一匹が、やはり深々とねむっているところが面白い。これらの動物はまばらに生えた植物と共に、画面の中央で小さな円環を形成し、左右の岩山から流れ落ちる動線を受け継いで、一方から他方へと転回させる役を果たしている。と同時にこの円環はヨアキムと羊飼の間に介在する距離の大きさ、この場における両者―神に選ばれし者と俗人―の近づき難い断絶感をも、暗示するもののようである。ジョットはけして単なる彫刻的造形の画家ではなかった。
ジョット・ディ・ボンドーネによる、スクロヴェーニ礼拝堂の壁画のひとつ、「ヨアキムの夢」です。こののちに聖母マリアの父となるヨアキムが、いまだ子のないことに悩み、羊飼いたちに混じって暮らすところに、天使が妻の懐胎を告げに現れる場面。