一夜通夜し給ひて、祈誓は本宮に同じ事、翌日は明朝香・神の蔵に暫く念誦し給ひて、那智へぞ参り給ひける。
佐野の浜路に着き給へば、北は緑の松原影滋く、南は海上遙かに際もなし。
日数の移るに付けても、あた命の促(つづま)るほど、屠所の羊の足早く、心細くぞおぼしける。「新定 源平盛衰記 第五巻」
源平盛衰記巻第四十より、「維盛入道熊野詣附熊野・大峰の事」の一節です。
敗軍の将である平維盛が、入水を思いながら熊野詣でをする心境が、「屠所の羊」にたとえられています。
日本における「屠所の羊」や「羊の歩み」のイメージについては、「砧」、幸田露伴「羊のはなし」、「源氏物語」などや「十二類絵巻」でお話しています。