ギリシャ。
そこでは大理石も海も、羊のように縮れていた、
そこでは絡み合った蛇が杖の飾りになっていた、
そこでは残酷な鳥たちが謎をかけてきた、
そこでは牧人が放縦な鷲を追った、
ジャン・コクトーの詩「自画像」より。
羊のような大理石と海、……って、なに? と思っていたら、澁澤龍彦のエッセイに以下のような一節が。
「ギリシア。そこでは大理石も海も、羊のように縮れていた」というジャン・コクトーの詩句があり、その洒落た言い回しが大いに私の気に入っているのだが、こうしたギリシアの印象を実感として把握するには、やはり実際に現地に足を運んでみる必要があるだろう。
アクロポリス美術館のアテナ・ニケ像も、エレクテイオンの屋根を支える少女たちの像も、その大理石の長衣の裾がおびただしい襞となって、まさに「羊のように縮れている」のである。
いや、ギリシアの神殿の円柱そのものが、縦に彫られた数多の条溝によって、縮れているといえるかもしれない。
それは、スーニオン岬から眺めるサロニカ湾の青い海が、微風に細波を立てて、やはり「羊のように縮れている」のと同様である。