没忽羊羹

ひつじ話

隋・唐の食文化は北方的である。幸いなことに、この時代の献立集が二つものこっている。
その第一は隋の謝楓の『食経』である。書かれた時期ははっきりしないが、何せ隋は三十年しか続かなかったのだから、その前後に多少くいこむとしても、まずは紀元600年ころのものと見て宜しかろう。
(略)
料理法は書いてないから、後世の料理書で類推するより仕方がない。仲でも傑作は
  没忽羊羹  人数にあわせて鵞鳥を全るのまま下ごしらえし、その腹に粳米飯と香辛料・調味料を詰めこみ、毛や臓物をぬきとった羊の腹にその鵞鳥をつめこんで、全焼にする。 あとで取り出して鵞鳥だけを供する。
羊一頭を全るまるダシにする。何とも贅沢なはなしだ。

篠田統「中国食物史」より、「隋・初唐の料理」の項を。
中国の料理書については、時代は離れますがいくつかご紹介しています。
「居家必用事類全集」「山家清供」、羊のあつもの絡みでお話した「斉民要術」、清朝の「随園食単」など。おいしそうだったり、想像もつかなかったり。

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アポロニオス 「アルゴナウティカ」

ひつじ話

表一面黄金の羊皮は、一歳牛か、
それとも狩人に赤鹿とよばれる鹿の
皮ほどの大きさがあり、ずっしりと重く
房毛におおわれていた。かれの歩く足もとから、
地面がたえず強いきらめきを放った。
あるときはそれを左肩にかけ、
うなじの先から足もとまで垂らして歩き、
あるときは手に掴んで巻いた。誰か人間か神かが
かれに出あってそれを奪いはしないかとひどく恐れたからだ。
 暁が大地に広がり、かれらは一行のもとにたどり着いた。
ゼウスの稲妻のように輝く大きな羊皮を見て
若者たちは驚嘆し、めいめい立ち上がって、
それにさわり手にもちたいと望んだ

紀元前3世紀ごろの詩人アポロニオスによる「アルゴナウティカ」から。
探し求めた金羊毛皮をついに手に入れた英雄イアソンが、アルゴナウタイのもとへ帰還する場面です。
金羊毛皮については、オウィディウスの「転身物語」より「イアソンとメデア」をご覧ください。
その他に、同じく「転身物語」の「ペリアス」ギュスターヴ・モローの「イアソンとメディア」「アルゴー号乗組員の帰還」グリルパルツァー「金羊毛皮」「家畜文化史」の考察ロバート・J・ソウヤー「ゴールデン・フリース」なども合わせてどうぞ。

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バイロン 「カイン」

ひつじ話

アベル  〔カインに手向いながら〕いけません。―不敬な言葉に、不敬な行いを加えないでください。
     あの祭壇はあのままにしておいてください。―あれはエホバが
     犠牲を受け入れてくださったので、今は彼の永遠のよろこびで
     浄められたのです。
カイン           彼のだ!?
     彼のよろこびだ!? 燔(や)いた肉の煙る血の匂いに
     つつまれた彼の高いよろこびとは
     いったい何のことだ―死んだ仔羊をいまなお求めて
     鳴きまどう母羊の苦しみを考えてみろ。お前の敬虔な
     刃の下の悲しい、何もしらぬ犠牲羊の跳び上るような
     痛みを思え。

ジョージ・ゴードン・バイロンの劇詩「カイン」から。
旧約聖書にあるカインのアベル殺しを描いた物語の山場、アベルの供えた仔羊のために兄弟が争う場面です。
カインとアベルのテーマについては、フィリップ・ド・シャンパーニュの「アベルの死の哀悼」「思想としての動物と植物」などをご参考にどうぞ。

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ピカード 「羊飼いと王様と南西風の話」

ひつじ話

娘は、すぐに羊飼いの若者のいる草原にむかってかけ出しました。
もう夕暮れ時でしたから、若者は羊たちを囲いのなかに入れているところでした。
娘の姿を目にした若者は、たいそうおどろきました。
「粉屋の娘さんじゃないか。あんまり長いこと会わなかったから、どこかへ行ってしまったんだと思っていたよ」
「あなたに返事をするために、もどってきたのよ」娘は言いました。

バーバラ・レオニ・ピカードの児童文学です。
神にも等しい南西風と、美しいドレスを贈ってくれる王様と、村の親切な羊飼いから、同時に求婚された粉屋の娘が、遠回り(南西風にさらわれて、海まで越えてます。文字通りの遠回り)の果てに羊飼いのもとに帰ってくるまでのお話。

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ナントカ 「ヒツジの執事」

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「ヒツジの執事」表紙

ナントカ(作者のお名前です)の四コママンガです。かわいい動物擬人化キャラクターと、ややダークなネタの取り合わせが良い感じ。
有能だけど気の弱い、ヒツジの執事サフォークさんが、ウサギの当主ミニ様やクールビューティなメイド長ミセスコリー、フラットウッズの宇宙人(動物……?)のメイドさんといった人々と、総じて幸せに暮らしてます。

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ヘーベルハウスのラム一家

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羅務 正永(まさなが) 久代(ひさよ)
ロングライフプログラムのキャラクター。
名前  羅務正永(らむ・まさなが)
初登場  2009年8月のテレビCM、新聞広告でデビュー。
テーマソング  ロングライフプログラムがない家はだメ?♪
          ロングライフプログラムがある家に住メ?♪

以前、ヘーベルハウスのTVCMをタレコんでくださったもりもとさんから、あの羊キャラクターは意外にも重々しい名前を持っているらしいとの続タレコミをいただきました。
彼の名前は、羅務正永氏。おじいちゃんとおばあちゃん、妻と息子と娘もいて、それぞれに良いお名前です。もちろん三世代同居ですよ。

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「オデュッセイア」より「第十一歌 冥府行」

ひつじ話

さて、われらが大粒の涙をこぼしつつ、悲しみのうちに浜辺の船に向かっている間に、キルケはすでに家を出て、何の造作もなくわれらの横をすり抜け、牡の羊一頭と黒い牝羊一頭とを、黒塗りの船の船側に縛り付けておいてくれていた。
(略)
ここまで来て、船を陸に揚げると羊をおろし、われわれはオケアノスの流れに沿って歩き、やがてキルケの教えてくれた場所についた。
ここでペリメデスとエウリュロコスとが、犠牲獣をつかまえておさえると、わたしは腰の鋭い剣を抜き放ち、縦横それぞれ一腕尺の穴を掘り、その穴の縁に立ってすべての亡者に供養した。
(略)
さて亡者の群に祈って嘆願した後、羊を掴まえ穴に向けて頸を切ると、どす黒い血が流れ、世を去った亡者たちの霊が、闇の底からぞろぞろと集ってきた。

ギリシア神話の英雄オデュッセウスについては、第九歌のキュクロプスとの闘いや「イリアス」「アイアス」の一場面をご紹介しているのですが、こちらは「オデュッセイア 第十一歌」から。
女神キルケの指示に従い、冥府にすむ予言者から帰国のための予言を得んと、オデュッセウスと部下たちが亡者たちの供養を行う場面です。
冥界に入った亡霊たちが、生前の記憶を取り戻したり生者と会話をするためには、犠牲の羊の血を飲む必要があるとのこと。

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「易経」より「羝羊觸藩贏其角」

ひつじ話

九三。
小人は壮を用い、君子は罔(もう)を用う。貞なれども厲(あやう)し。
羝羊(ていよう)藩(まがき)に触れてその角を贏(くるし)ましむ。
九三は過剛不中、しかも乾卦の極に居るから、事に当って壮に過ぎやすい。
壮んな上にも壮んな状態である。従って小人はとかく壮を用うることにおいて度をすごしやすいが、君子はその度をすごすことがない。
もし壮を用うることの度がすぎれば、いかに目的が貞正であっても危険である。
たとえて言えば、もともと強情な性質のある羝羊(牡羊)が妄進して藩に触れその角をひっかけて進退に苦しむようなものである。

古代中国で成立した、易経六十四卦のひとつである「大壮」の解説部分から抜粋。
要するに、まぁちょっと落ち着け、という内容の卦なのですが、そのたとえとして、暴走した牡羊が使われています。

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クリストファー・マーロウ 「若き羊飼いの恋歌」

ひつじ話

The Passionate Shepherd to his Love
Come live with me and be my Love,
And we will all the pleasures prove
That hills and valleys, dale and field,
And all the craggy mountains yield.
There will we sit upon the rocks
And see the shepherds feed their flocks,
By shallow rivers, to whose falls
Melodious birds sing madrigals.
頼むから、家に来て俺の嫁になってくれ、
もし来てくれたら、二人で数々の楽しみを味わおう、
丘や谷、深い渓谷や野原の楽しみを、いや、
険しい山の楽しみを、心ゆくまで二人で味わおう。
山の岩場に腰をかけ、小川のほとりで羊を飼っている
あの連中を二人で眺めるのも楽しかろう、
その小川のせせらぎの音に合わせて、
小鳥たちもきっとマドリガルを歌ってくれるはず。

16世紀イギリスの劇作家、クリストファー・マーロウの「若き羊飼いの恋歌(The Passionate Shepherd to his Love)」です。シェイクスピアとほぼ同時代人ですね。シェイクスピア関連はこちらで。
時代はまったく違いますが、イギリスの詩人つながりで、テニスンの「アーサー王の死」ブレイクの「羊飼い」もご参考にどうぞ。

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サン=テグジュペリ 「人間の土地」

ひつじ話

ギヨメは、この同じ航空路の、ぼくに先んじた経験者であった。ギヨメは、スペインの鍵を手に入れる秘密を心得ていた。ぼくには、ギヨメの教えを乞う必要があった。
(略)
それにしても、あの晩、なんと不思議きわまる地理学の講習を、ぼくが受けたことか! ギヨメはぼくに、スペインを教えてはくれなかった、彼はスペインをぼくの友達にしてくれた、彼は、水路学のことも、人口のことも、家畜賃貸のこともまるで語らなかった。彼はまた、ゴーデスについても言わなかった。ただゴーデスの近くに、ある原っぱを囲んで生えている三本のオレンジの樹について、〈あれには用心したまえよ、きみの地図の上に記入しておきたまえ……〉と、言った。
(略)
ぼくはまた、あの小山の中腹に陣をしいていまにも襲いかかろうと身構えているという、その三十頭の闘羊に対しても、しっかり足をふんばって待機した。〈きみは、この牧原には、障害物は何もないと思いこむ、ところがいよいよやってみると、さあたいへんだ! 三十頭の羊がいて、きみの車輪の下へ流れこんでくる……〉この、世にも不実な脅威に対し、ぼくはただ、感嘆の微笑をもって報いるのみだった。
やがて、すこしずつ、ぼくの地図のスペインが、ランプの灯かげのもとで、おとぎの国になってくるのであった。ぼくは、十字を印しては、避難所と陥穽に目印をする。ぼくはあの農夫に、あの三十頭の羊に、あの小川に印をつけた。ぼくは、地理学の先生たちがなおざりにした、あの羊飼い女を、その正当な位置においた。

ずいぶん以前に「星の王子さま」関連本をご紹介したアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリですが、こちらはその飛行士としての経験を描いた随筆集。
新人の郵便飛行士であるサン=テグジュペリが、僚友に助言を求める場面です。

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ベノッツォ・ゴッツォリ 「羊飼いの宵越し」

ひつじ話

「羊飼いの宵越し」
「羊飼いの宵越し」(部分)
壁面の絵画装飾は、礼拝堂の広間と内陣という二つの空間に対応して分かれている。
広間は、右上にある城壁に囲まれた白い都市エルサレムから、祭壇画のなかで讃えられているキリスト降誕の地ベツレヘムへと向かう《東方三博士の旅》にあてられている。
内陣の両側にある聖具室の入口の上の細長い壁面には、聖夜に先立つ黄昏時の《羊飼いの宵越し》が描かれている。

15世紀イタリアのベノッツォ・ゴッツォリによる、メディチ・リカルディ宮「東方三博士礼拝堂」のための壁面装飾から。

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「オオカミと羊」

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「オオカミと羊」
オオカミは、くる日もくる日も、
牧場でとんだりはねたりする羊の群れを
ながめていました。
ぼくはおとなしくて、まるで子羊みたいな
オオカミなのに、
どうすればわかってもらえるだろう?

昨日に続いて、絵本をもう一冊。アンドレ・ダーハン作、倉橋由美子訳の「オオカミと羊」です。
さびしがりやのやさしいオオカミが、羊たちと友だちになるためにしたことは……?

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「ひつじのロッテ」

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「ひつじのロッテ」
ひつじたちはなんと言っただろうね、ロッテが夜こっそり出かけていくのを知ったなら!
みんながねむっているあいだに……
……ロッテがそっとぬけだして行くさきは、とくべつお気に入りのばしょ。
そこで月をながめるんだ。

アヌ・ストーナー作、ヘンリケ・ウィルソン絵、大島かおり訳の絵本です。
危ない場所にばかり行きたがる変わり者の子羊ロッテは、いつもみんなを困らせています。でもある日、山の中で足をくじいた羊飼いのおじいさんのために、ひとりで助けを求めに行くことになって……。

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