むかしゴボン・シーアという男がいて、ジャックという名の息子があった。
ある日のこと、ゴボンは息子に羊の皮を売りに行かせようとして言った─「皮と、皮を売った金と、両方持って帰ってこい」
(略)
娘はこちらを見上げ、「こんなこと訊いちゃ悪いかもしれないけど、何をそんなに悩んでいるの?」と訊いた。
「おやじがこの皮をくれたんだけど、売った金と皮と両方持って帰らなきゃならないんだ」
「それだけのこと? ちょっとあたしに貸してみて。何でもないことよ」
そう言うと、娘は羊の皮を川で洗い、毛を取り、羊毛の代金をジャックに払い、これを持って帰んなさいと皮だけ返してくれた。
ジャックの父親はすっかり喜び、「それは頭のいい娘だ。きっとおまえにとっていい嫁になるだろう。も一度会ったら、その娘だと分かるか?」と言った。
「イギリス民話集」から、「ゴボン・シーア」の冒頭部分を。機転の良さを見込まれて嫁になった娘は、最後は親子の命まで救うことになるのですが、きっかけはなぜか羊の皮です。