カタコンベ壁画に旧約聖書や新約聖書場面が登場するのは三世紀半ば以降であるが、二世紀末から三世紀初めにはキリスト教徒は、既存のローマ異教葬礼美術の図像レパートリーの中から、キリスト教の文脈でも利用できる図像を巧妙に選んで墓を飾っていたとみなすのが、今日、一般的な見解となっている。
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異教、キリスト教を問わず三世紀後半の石棺浮彫りやカタコンベ壁画にも頻繁に登場する奏楽や読書、擬人像表現による四季の営み、さらには狩猟の情景、羊飼いと羊や山羊の群れの牧歌的田園情景は、死者に手向けられた理想的な死後世界の表現である。
そして同時にそれはローマ社会の上流階層の教養人たちが、海辺や田園の別荘(ヴィッラ)に求めた精神的世界そのものの表現でもあった。
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三世紀後半はローマ社会の混乱期ではあったが、キリスト教会にとっては非常に重要な時期で、財力もあり教養もある多くの人々が入信した時期でもあった。
彼らが田園の別荘生活に求め、実践した精神的生活が、キリスト教への改宗をより容易にしたともいえる。
そしてシドニウス・アポリナーリスをはじめとする四?五世紀の文人たちも伝えるように、ローマ社会の伝統的な貴族階級の者たちはキリスト教徒となったのちも、田園のオティウムの世界で獲得した古典的教養の世界を決して捨てることはなかった。
ヴァチカン美術館所蔵の石棺やカタコンベ天井のフレスコ画、ゴールドサンドイッチガラスなどについてお話している、初期キリスト教美術のそのはじまりについて、わかりやすい解説書がありましたのでご紹介を。