日本志向の農産物

 「タスマニア○○」
 「クインズランド○○○○」
 「オーストラリアン・ライス○○○○○」
 さて、この空欄にはどんな言葉が入るでしょう?
 答えは、ソバ、ワギュー(和牛)、コシヒカリ。豪州で生産される、日本原産品種の、ほんの一例だ。
 日本は今や、世界屈指のグルメ大国。消費者は、おいしいものには金を惜しまない。世界中の農業生産者にとっては夢の市場だ。
 オーストラリアは、米国、中国などの競争相手を横目に、「日本人が好む物を作る」戦略で日本市場にしっかり食い込んでいる。最も手堅いのは、日本人が食べている品種をそのまま作ること。かくして、米やソバ以外にも、うどん、緑茶、高級果実(サクランボの佐藤錦など)、海産物など、日本特有と見られた食材まで今では豪州で育つ。
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 「私たちの農産物、食品を一言で表せば『品質』。これだけはどの国にも負けません」。万博関連の催しで来日したクインズランド州政府のピーター・ビーティー首相は胸を張る。
 オーストラリア駐日大使館によると、豪州農業の「目指せ、日本」志向はすでに1980年代には本格化していた。日本市場は、味覚だけでなく、安全性についても、世界で最も厳しい。そこで売れるなら、世界のどこでも通用する――。豪州農家は日本市場に食らいついた。
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 この日本志向の原点は、一人の日本人移民にあった。最初に豪州で米を栽培したのは、四国松山藩出身の高須賀伊三郎(穣)(1865?1940)だ。
 高須賀は若くして米国に留学。衆議院議員にもなった。1905年、40歳で妻と二人の幼い子どもを連れ、豪州に。同国が大量の遊休地を抱えながら米を輸入していることに着目。翌年、日本から持ってきた米の種子をマレー川沿いのスワンヒルの土地にまき、単身、米栽培に着手した。
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 それからの苦労は、伝説である。芽がヒツジに食われて全滅したり、洪水ですべてを流されたり。それでも独力で堤防まで作り、5年後の年、初収穫に成功した。この堤防は後年「日本堤」と呼ばれ、高須賀の挑戦は、豪州の農業関係者の間で不朽の業績となった。
 万博豪州館は、期間中、州ごとにイベント週間を設け、各州の食材をたっぷり紹介する。「『豪州はおいしい』を体感して欲しい」。ビーティー首相はどん欲に訴える。

ひつじ話

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