雲を引き寄せる鉤 =羊の角=

ドゴン族は,西アフリカの荒涼とした岩地のきびしい環境で,農耕生活をいとなむ戦闘的部族である。ドゴン族の説話には,宇宙の始まりと発展を象徴すると思われる箇所のあちこちに,生きるために欠かすことのできない雨をもたらす雲が登場する。
マルセル・グリオールは『水の神』という優れた著書の中で,ドゴン族のトーテム状神殿を描写している。
神殿は一辺約3mの立方形で,正面の左右の角にはやや先細りの塔が建っている。塔には円錐形をした一種の帽子のようなものがのっており,その間から神殿内部に安置された鉄製の鉤がみえる。先端が鋭く内側に曲がり込んだ鉤が2つついているのが普通である。この鉤は,天上にすむ角のはえた雄羊の頭で,内巻きの角が雨雲を支える形になっている。2つの鉤形はまた2本の手のようでもあり,湿り気を抱え込み,豊作を引き寄せる。
 雲を引っかけた角を持つこの天の雄羊の体は,黄金色に彩られており,雨季の嵐の前には,必ず雨雲の間を駆け抜けるのが見えるという。雄羊はまた天地にあまねく影響を与える存在でもある。
雨と霧はこの羊の放尿である。しかも,じっと動かずに放尿しているわけではない。天空を駆け巡る雄羊の蹄は地球を揺るがし,4色の色の付いた蹄の跡を残す。それが虹というわけだ。
虹を伝って天上の雄羊は空から下りてきて,地上の大きな沼に身を沈める。雄羊は蓮の葉の間に沈んで,「水は私のもの,私の所有物であるぞ」と叫ぶ。この民話では天上の雄羊は原始の雲の象徴で,そこからこぼれ落ちた最初の夕立が最初の畑をうるおしたのだという。
雄羊の天からの放尿が雨だという考えは,風が雲を運び,雲が雨と雪と雹を生み出す,と考えられているからだ。

よく傘を忘れてずぶ濡れになるので、日本の雨は放尿でないことを祈っておきます。
雄羊をかたどった黄金のペンダント
雄羊をかたどった黄金のペンダント(同書より)

ひつじ話

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