羊の歩み
羊に関する記述は、漢詩文や仏典を踏まえたものが多く、その典型的な例が経典に見える「屠所の羊」に基づいた、無常を表す「羊の歩み」である。
『源氏物語』浮舟巻には、薫と匂宮との二人への愛情の板挟みになり、切羽詰って入水を決意した浮舟の心中を述べた、「明けたてば川の方を見遣りつつ、羊の歩みよりも程なき心地す」がある。
類例は多く、『狭衣物語』巻二の狭衣の子を懐妊した女二の宮の胸中の心細さ、『栄花物語』初花巻の彰子の出産を間近に控えた土御門殿のあわただしく日々を過ごすさまなども「羊の歩み」とされている。
(略)
古代以来、羊は高温多湿で狭隘な日本に定着しなかったが、仏典や漢籍を通じてもたらされた羊に関する情報は、諺などとして伝承されてきている。(略)これは「羊の屠所に赴くが如し」などが知識としてあってのことである。
おとつい「十二類絵巻」をご紹介したときに触れた「羊の歩み」について、少しだけ。
平安期の日本では、羊といえば無常、だったのですね。
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