H.C.ベイリー 「羊皮紙の穴」
「いやはや!」レジーは溜息をついた。
「違いますよ。そんなもんじゃない。これが年代ものの証拠だなんて。むしろ偽物の証拠ですよ。これは鼠がかじった穴なんかじゃない。最初からあいていた穴です。
この羊皮紙は羊の頭の皮で、穴は目があったところですよ。
だから文字はかじりとられたんじゃなしに、最初から書かれなかったんです。なぜか?これを書いた人間が本物の古写本の断片を手に入れて、目玉の穴を鼠がかじった穴とかんちがいしたからですよ。そこでそいつはおしまいの三字をわざと書きおとした。だからこれは偽物にきまっています」
本への愛情をテーマにしたアンソロジーに収められた、H.C.ベイリーの短篇ミステリ「羊皮紙の穴」です。稀覯本蒐集にまつわる事件のなか、写本にあいた穴が解決への糸口になるのですが、まさかこういうオチがつこうとは。
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