シェイクスピア 「お気に召すまま」

コリン  そりゃあ違うな、タッチストーン。宮廷でのいい礼儀作法ってもんは田舎じゃ滑稽に見えるんだよ、田舎の行儀が宮廷じゃ物笑いになるのとおんなじでね。あんたの話だと、宮廷じゃあいさつがわりに手にキスするっていうんだろう、そんな作法は不潔だよ、宮廷にいる人が羊飼いだとしたら。
タッチストーン  それを証明できるかね。さあ、手っとり早く証明してみな。
コリン  だっておれたちはしょっちゅう羊をいじくってるだろう、ところが羊の皮ってやつは脂でねちねちしてるんでね。
タッチストーン  じゃあ、宮廷人の手は汗をかかないって言うのか? 羊の脂は人間の汗より不潔だって言うのか? だめだ、だめだ、もっとうまく証明してみな。
コリン  それに、おれたちの手は硬えんだ。
タッチストーン  それだけちゃんと唇に感じるじゃないか。それでもだめだ、もっとしっかり証明してみな。
コリン  おれたちの手は羊の傷に塗ってやるタールで汚れている、タールにキスしろって言うのかね? 宮廷の人たちの手には麝香が塗ってあるんだろう。
タッチストーン  まったくだめな男だな! 上等肉にくらべたらおまえは蛆虫の餌にしかならん腐れ肉だ。賢い人から教えてもらってよおく考えてみるんだな、麝香ってやつはタールよりも卑しい生まれなんだぞ、不潔きわまる猫の糞から作るんでな。証明しなおしてみな、羊飼い。

ウィリアム・シェイクスピアの喜劇「お気に召すまま」から、公爵の元を逃げ出して森で暮らし始めた道化のタッチストーンと、老羊飼いコリンの会話です。最初は、「田舎暮らしは慣れたか」程度の世間話をしていたはずなのに、なんでこんな会話に。
シェイクスピアは、「リア王」の一節と、「冬物語」をご紹介しています。

ひつじ話

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