和辻哲郎 「イタリア古寺巡礼」
もう一つ注意をひいたのは、絵の構図の簡素なことである。
六面の絵のうちでは<よき羊飼い>の図が一番複雑で、あとはもっと簡単にできている。
(略)
この図が複雑になっているのは、羊や草や岩などを並べたからであって、人物を組み合わせたからではない。
これでも羊が多すぎるといえばいえないこともないが、しかし牧場に動いている羊の群れのことを思うと、これはまず極度の簡単化だといってよいであろう。
その羊や草が背景として人物よりも引っ込んだ別の層になっているのでなく、人物と同じ層に人物を囲んで置かれていることも、ほかにないことである。
このように自然を重く取り扱うということ、自然と人物とがちょうど平衡に釣り合っているということは、どうもヨーロッパ風の感じでない。むしろ東洋風といってよいものであろう。
和辻哲郎の「イタリア古寺巡礼」より、ガラ・プラキディア廟堂のモザイク「善き羊飼い」について語られた部分です。
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