「ドン・キホーテ」

「ドン・キホーテ様、どうか引き返しておくんなさい! 旦那様が攻めようとしていなさるのは、神に誓って、間違いなく羊でござりますぞ! (略)」
もとよりドン・キホーテは、こうした呼びかけに耳を貸そうとはしなかった。それどころか、彼は大声を張りあげながら、突進していった―
「やあやあ、武勇の誉れ高き大帝、≪腕まくり≫のペンタポリンの旗のもとに戦う騎士の方々、いざ参りましょうぞ。拙者のあとにお続きなされ。さすれば、拙者がおのおの方の仇敵アリファンファロン・デ・ラ・トラポバーナを、いかにたやすく討ちとるかごらんになれるは必定。」
こう言いながら羊の大群のまっただ中に突っこんだ彼は、まるで本当に不倶戴天の敵を相手にしているかのように、戦意をむき出しにし、すさまじい勢いで槍をふるいはじめた。
家畜に付き添っていたその所有者と羊飼いたちは、声を限りに叫んで制止しようとしたが、いっこうに効き目がないのが分かると、それぞれ石投げ器を取り出し、ドン・キホーテの顔面めがけて、こぶし大の石を飛ばしはじめた。

セルバンテス「ドン・キホーテ」より、反対方向から近づいてくる二つの羊の大群を合戦中の大軍勢と思いこんだドン・キホーテの活躍の一幕。風車だけじゃなかったんですね……。

ひつじ話

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