『千一夜物語』より 「羊飼いと乙女」
語り伝えますところでは、昔回教国の山々のうちのある山に、非常な知恵と熱烈な信仰とを授けられた、ひとりの羊飼いの男がおりました。
この羊飼いはおのが運命に安んじ、自分の羊の群れからとれる、乳と毛のもので暮らして、安らかな隠遁の生活を送っておりました。
そしてこの羊飼いは、自分のうちには、なみなみならぬ柔和さ、自分の上には、なみなみならぬ祝福を持っていたので、野獣どももけっして彼の羊は襲わず、この人自身をもいたく敬って、遠くから姿を見かけると、叫び声とほえ声で、これに挨拶をするほどでございました。
こうしてこの羊飼いは世界じゅうの町々に起こることなどほとんど気にかけずに、こうして長いあいだ暮らしつづけたのでございます。
マルドリュス版千一夜物語の第147話より、「羊飼いと乙女」の冒頭部分です。
千一夜物語からは、「荷かつぎ人足と乙女たちとの物語」と「羊の脚の物語」をご紹介しています。
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