「儚い羊たちの祝宴」
パパは朝、夏さんに晩餐の仕度を命じた。夏さんはうやうやしく「かしこまりました」と言った後、淀みなく続けた。
「急な宴ですので、山海の珍味を整えることは難しいかと存じます。主菜には羊頭肉の薄切りはいかがでしょうか」
パパは眉をひそめた。
「羊頭というのは羊の頭か。そんなものが旨いのか」
「佳品でございます」
(略)
朝、費用の内訳にママが目を剥いた。
「なんなのこれは、どうしてこんなに」
見せてもらって、わたしも驚いた。『羊頭十二個』。羊をまじまじと間近で見たことはないけれど、あれはそんなに小さなものではない。一抱えはあるだろう。たぶん一個で六人分を充分まかなえただろうに、十二個だなんて。
米澤穂信の短編集「儚い羊たちの祝宴」より。以前ご紹介した厨娘が、物語のなかで重要なモチーフとして使われています。こちらの小説ではラストにややグロテスクなオチがつくのですが、やはり羊絡みではありますので、お嫌いでなければぜひ。
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