「ふしぎな羊」
「ああ、この世でいちばん幸せなのは、王や王女とはかぎらない。なんということでしょう、わけもなくお父さまに命をねらわれて、にげかくれしなければならないなんて」
そうつぶやきながら、王女は羊の鳴き声のするほうへ進んでいった。
ところがおどろいたことに、ぐるりを木々に囲まれた美しく小さな空き地に、一匹の大きな羊がいた。
羊の毛なみは雪のように白く、角は金色にかがやいていた。
花輪を首に、大きな真珠のかざりを足に巻き、ダイヤモンドをちりばめた首輪をつけていた。
羊は、オレンジの花がこんもりとさく土手の上に、金の布の日よけをかけて日光の熱をさえぎり横たわっていた。
あたりには百匹もの羊がてんてんとちらばっていた。
どの羊も草は食べず、コーヒーやレモネードを飲み、シャーベットやアイスクリームや、クリームのかかったイチゴや砂糖菓子を食べていた。
19世紀イギリスの民俗学者アンドルー・ラングが蒐集再話した世界童話集より、「ふしぎな羊」です。
父王に憎まれ、ひとりで森をさまようことになった王女は、羊の鳴き声に導かれて、美しい羊の王が君臨する別世界の客となりますが……。
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