ヴォルテール 「カンディード」
彼がそんなふうに話していると、なにやら色鮮やかな赤いものが船の脇を泳いでいるのが目に入った。
いったいそれがなになのか見ようとしてボートを出してみると、なんとそれは彼の羊の一頭ではないか。
カンディードがこの羊に再会したときの喜びは、エルドラードの大きなダイヤモンドを積んだ百頭の羊をそっくり失ったときの悲しみより、ずっと大きかった。
フランス人の船長は、敵船を沈没させたほうの船の船長がスペイン人で、沈没させられたほうの船の船長がオランダ人の海賊であることにやがて気づいた。
その海賊こそ、カンディードに盗みを働いた例の男だった。
その極悪人が横取りした莫大な富は男もろとも、海底に埋もれ、一頭の羊だけが助かったのだ。
「バビロンの王女」をご紹介したことのある、ヴォルテールの「カンディード」です。
主人公の若者カンディードは、放浪のすえに黄金郷エルドラードの客となり、財宝と赤い羊を与えられます。意気揚々と新たな旅に出るものの、すぐさまだまされて得たものの多くを失い、憂鬱な旅を続ける彼の前に、わずかな救いが自力で泳いで戻ってくる場面です。
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