澁澤龍彦 「東西庭園譚」

円明園の庭園は三つの区域に分れていたが、その最初の区域に建てられたのが第一の西洋楼「諧奇趣」であった。
(略)
しかし皇帝をもっとも喜ばせたのは、この「諧奇趣」の建物の前面に据えられた、ブノワの苦心になるところの噴水であって、皇帝は建物の窓から、玉座にすわったまま、左右に寵姫をはべらせて、噴きあげては落下する水の束を飽かず眺めたのである。
泉水の縁や、岩の上や、水の中に十数匹の青銅製の動物、鵞鳥や羊や魚などが設置されていて、その口から勢いよく水を吐き出すという、いわば動物の水合戦をあらわしていた。
橋を渡って第二の区域にいたると、三方を運河で囲まれた「花園」と呼ばれる迷路庭園の中央に、大理石造りのキオスクがあり、さらに行くと第二の西洋楼「海晏堂」が建っている。
この名前の由来は、テラスの上に噴水の水を供給する巨大な貯水槽が設けてあるためだった。
「海晏堂」の建物は、多くの細部においてはバロック風であるが、全体はトリアノンとヴェルサイユの正面広場から着想を得ている。
おもしろいのは、建物の西面にある大階段の下に設けられた噴水で、この噴水が時計の役目をしているのだ。
すなわち、泉水の左右に六匹ずつ並んだ十二支の動物が、鼠からはじまって猪まで、一時間ごとに交代で口から水を吐き出すのである。

先日ご紹介した、円明園の十二生肖獣首銅像に関連して、澁澤龍彦『胡桃の中の世界』からの一章「東西庭園譚」を。

ひつじ話

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