「三国志演義」の犠牲式
朱儁(しゅしゅん)が言うには、「向こうは妖術使いだ。こっちも明日、豚・羊・犬を殺して血を集め、兵士を山の頂上にひそませておいて、賊軍が追撃して来たとき、高い坂の上からこれを浴びせかければ、魔法を破ることができるだろう。」
劉備はその命令に従い、関羽・張飛を差し向け、おのおの一千の軍勢を率いて山の裏側の高い岡で待ち伏せさせた。
その一方、豚・羊・犬の血と汚物を集め準備をととのえた。
翌日、張宝は軍旗をなびかせ太鼓を打ち鳴らしながら、軍勢を率い戦いを挑んできた。
劉備がこれを迎え撃ったところ、合戦の最中、張宝は妖術をつかいだした。
風や雷がはげしくおこり、砂が舞い石が飛び、黒気が天にみなぎったかと思うと、次から次に人や馬が天から下りてくる。
劉備が馬首をめぐらし一目散に逃げだすと、張宝は兵を駆り立て追いかけてくる。
山かどを通過しようとした瞬間、関羽・張飛の伏兵が合図の火砲を放ち、いっせいに汚物を浴びせかけた。
ふと見ると、紙で作った人間や藁で作った馬が、空中からバラバラと地面に落ちてくる。
風や雷も瞬時にやみ、砂や石も飛ばなくなった。
三国志演義です。冒頭、黄巾の乱平定の場面。妖術を祓うために羊(の血)が使われています。
このあたりのわかりやすい解説が荒俣宏のエッセイにありましたので、下に。
中国の場合、興味深い犠牲獣に、犬がいる。犬の血は、汚れたものを清める効果があると信じられたらしく、漢字学者白川静さんによれば、獣や哭(呪)や祓など「犬」の字が付く漢字の多くは、祭祀や儀式にかかわっているという。
(略)
羊は、これまた神の裁定を引きだすために欠くべからざる獣であった。
いったいどういう目的で生贄にされたかといえば、「善」や「義」、あるいは「祥」を導くためであった。
これらの漢字をよく見ると、すべてその一部分に「羊」の字が存在している事実に気づくだろう。
羊は、ものごとに「良い結果」をもたらそうとするとき、用いられた犠牲獣だったと考えられる。
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