伊集院静 「羊の目」
近づくとそれは古い教会だった。海風に晒された分厚い木の扉が開いていた。武美は中を覗いた。人影はなかった。天窓から差し込んだ陽差しが祭壇を浮かび上がらせていた。きらきらと光るものが見えた。何だろう? 武美は中に入った。祭壇の背後の壁に磔刑のキリスト像がかかっていた。木偶の素朴な像だった。光っていたものの正体は祭壇の上にぽつんとあった子羊の石像だった。そのそばにイエスを抱いたマリア像があり、赤児のイエスが子羊に手を差し出していた。赤児と子羊の頭が光を放っている。武美はリトルトーキョーの教会で神父と交わした会話を思い出した。
『神はどんな人間でも救って下さるのですか』
伊集院静の小説「羊の目」です。「親の望むがままに敵を葬り、闇社会を震撼させる暗殺者となった武美に、神は、キリストは、救いの手をさしのべるのか―。」とのアオリつき。任侠ものを読んで羊に出会えることがあろうとは。
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