恩田陸 「ロミオとロミオは永遠に」
イワキは小さく溜息をつき、立ち上がると尻をはたいた。
「ここから出たら、二人で掘りまくって、また世界中の大陸をトンネルで繋げてやろうぜ。でも、今の俺たちのドーバー海峡はここだ。俺は絶対フランスに上陸してみせる。俺たちのDデイは迫ってるぞ」
見ると、もうオワセは眠り込んでいた。イワキは頭を叩く。
「起きろ、オワセっ。眠ったら死ぬぞっ。メーリさんのひつじっ」
ハッとしたオワセが慌てて起き上がる。目をこすりつつ、スコップを握る。
「メーリさんのひつじ、わたれ、わたれ、メーリさんとわたれ、ドーバー海峡」
「メーリさんのひつじ、わたれ、わたれ、メーリさんとわたれ、ドーバー海峡」
些か調子っぱずれな声と共に、再び薄暗がりの中に、つるはしの音が響き始めた。
恩田陸の小説、「ロミオとロミオは永遠に」です。
「バトル・ロワイアル」または「死のロングウォーク」的設定プラス、「大脱走」的ストーリー。プラス、前世紀サブカルチャーへの愛、という濃度の高い一冊ですが、引用は、大脱走を企む学生たちのうちの二人、トンネル掘削担当のイワキとオワセの会話。
ひんぱんに睡眠発作を起こすやっかいな病を抱えたオワセの、一番の眠気対策は、なぜか「メリーさんの羊」を歌うこと。イワキがまた、一匹狼キャラなのにつきあいが良いんですよ。
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