ボス 「東方三博士の礼拝」(続き)
朱の外衣の老王(カスパール)は、あたかも祭壇の前にいるかのように、聖母子に向かって恭しく跪拝している。
(略)
手前においた、真珠をあしらった贈り物は奇妙なもので、その黄金製の容器には「イサクの犠牲」の彫刻がある。
それはやはりタイポロジーを示す形象であって、薪の束を肩にかつぐイサクの姿は、十字架を担ってゴルゴタへ向かうイエスの予型にほかならない。
注意してみると、ガマがこの贈り物の下で圧しつぶされている。
本祭壇画には別のところにも不気味なガマがいるし、ボッスはほかの絵画でもしばしばそれを描き添える。
ガマは特別の意味をもつはずで、たぶん異教ないし性的な罪を象徴する記号である。
とすれば、「イサクの犠牲」を示す器の下でガマが圧しつぶされているのは、イエスが己が身を犠牲にすることで、異教の世界、邪悪な世界を打破することを意味する。
この贈り物の意味合いが、おそらくは本祭壇画を貫く主題といってよかろう。
ずいぶん以前にご紹介した、ヒエロニムス・ボスの祭壇画「東方三博士の礼拝」に描かれた奇妙な物件について、解説を見つけましたので、あらためて。
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