「鏡の国のアリス」
「じゃあ、もうお指はだいじょうぶなんですね?」
アリスがとてもていねいに言って、クイーンを追って小川をまたいだ、そのときです─
「ああ、ずっといいの」と、さけんだクイーンの声が、こんなふうに変わっていきました。
「めっちゃええわ! めぇえーちゃええー! めぇえーええー! めえええー!」
最後の言葉はヒツジのような長い鳴き声になったので、アリスはたいそうびっくりしました。
クイーンを見てみると、とつぜんウールでからだをくるんだように見えました。
アリスは目をこすって、もう一度見てみました。
いったいどうなってしまったのか、さっぱりわかりませんでした。
ここはお店のなかでしょうか?
それに、そこにいるのはほんとうに─カウンターの向こう側にすわっているのは、ほんとうにヒツジ?
どんなに目をこすってみても、それ以上のことはわかりません。
アリスは暗い部屋にいて、カウンターにひじをついてもたれかかっていて、向かいには年とったヒツジがひじかけイスにすわって編み物をし、ときおり手を休めては大きなメガネごしにアリスを見ているのです。
大昔に海洋堂フィギュアの「編み物をする羊」をご紹介したきり、なぜかお話しそこねていた「鏡の国のアリス」を。引用は、河合祥一郎訳の角川文庫版です。
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