ピロストラトス 「英雄が語るトロイア戦争」
大アイアスの霊のこと
家畜の群れに生じる災害は全てアイアスが原因だと人々は言っています。
たぶん彼の狂気に関する話のせいでしょう。
彼は家畜たちに襲いかかって略奪し、あたかも武器の裁定のことでギリシア人たちを殺害しようとするような振舞いに及んだわけですから。
また彼の墓の周りで放牧する者もいません。
そこに生え出る草は有害で、家畜を養うのにはよくないということで、その草を恐れているのです。
こんな話があります。
トロイアの羊飼いたちが、家畜に病が生じたとき、アイアスを侮辱するため墓の周りに立って、この英雄はヘクトルの敵だ、トロイアとその家畜の敵だと叫び、ある者は、彼は狂人だったと、またある者は、今でも狂っていると口走りました。
さらに別のいちばん不敵な羊飼いが、彼に向かって叙事詩の句を
アイアスはもうとどまらなかった
という箇所までそらんじて、彼を臆病者とそしったところ、墓の中から彼が、
いや、俺はとどまった
と、恐ろしいはっきりした声で叫び返したのです。
3世紀のギリシア人ピロストラトスによる、トロイア戦争で死んだ英雄がよみがえって戦の真相を語る物語「英雄が語るトロイア戦争」から、以前、ソポクレスの悲劇「アイアス」でお話した大アイアスにまつわる一章を。
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