カーレン・ブリクセン 「指輪」
美しい七月の朝だった。
空には軽いひつじ雲が漂い、大気は甘い香りに満ちている。
リーセは白いモスリン・ドレスとイタリア製の大きな麦藁帽という装い。
夫妻は庭を曲がりくねっているロマンチックな小道をたどった。
それは野道になって、牧場を越え、高い木立ちを抜け、小川を越え、小さな森の脇を通って羊囲いまで続いている。
シギスムンは今日、リーセに羊を見せることになっていた。
だから彼女も、今回にかぎって白い小型犬のビジュを家に置いてきた。
子羊に吠えついたり、牧羊犬と喧嘩になるといけないから。
荘園の羊は特にシギスムンの自慢の種だった。
彼はメクレンブルクとイングランドで羊の飼育を学んだことがあり、自分のデンマーク種の羊を品種改良するため、コッツウォルド種やドイツ種の雄羊を持ち帰っていた。
その計画には大きな可能性と幾多の困難が待ち受けていることを、道々妻に説いて聞かせた。
妻は思った。「何て賢いこと! いろんなことを知っているわ!」それと同時に考えた。
「羊といると、小僧っ子じゃないの! 赤ちゃんよ! わたしのほうが百歳年上だわ」
カーレン・ブリクセンの短篇集『運命綺譚』より、「指輪」の冒頭部です。幸福な新妻と、羊泥棒によって象徴されるこの世の罪業や悲哀との邂逅。
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