趙孟頫 「二胡羊図」

「二胡羊図」
趙孟頫(ちょうもうふ)に「蘇李泣別図」という作品があったことが、十七世紀の『好古堂書画記』などにしるされている。
現在は亡佚しているが、記述によれば、蘇武の衣を羊がくわえている図で、気韻生動の名品であるという。
李陵は奮戦もむなしく匈奴に降り、匈奴に重用された漢の将軍である。
蘇武は匈奴に使して抑留されること十九年、降伏をすすめられたが、最後まで漢の節を守った人物である。
李陵はかつて抑留地のバイカル湖畔に羊を牧していた蘇武を訪ね、自分のように降伏することをすすめたが拒絶された。
そのときの別れのさまを描いた大作だが、ひょっとすると、二胡羊図はそれの副産物だったかもしれないという説がある。
近人の李鋳晋氏は「羊の誇らしげなようすは蘇武の精神を象徴し、山羊の卑屈さは李陵のそれである」と述べている。
だが、まるまると肥っている潤筆の羊が降伏した李陵で、下からにらみあげている渇筆のアンゴラ山羊のほうが蘇武であるかもしれない。
趙孟頫自身は元に仕えたのだから、いわば李陵的人物である。
その彼が幻の名作「蘇李泣別図」を描いたのは、みずからの苦衷を表現したのであろうか。

陳舜臣の「中国画人伝」より、元初の趙孟頫による「二胡羊図」の章を。
以前お話したことのある蘇武牧羊のエピソードと絡んだ解説が、たいへん興味深いです。

ひつじ話

Posted by


PAGE TOP