ワーズワース 「序曲」

どちらからでも鶴首して待つ馬車は来るはず、
そのどちらかは不確かながら。わたしは
丘の頂上へと登った。その日は
風吹きすさぶ、荒れ模様の日で、草に座った
わたしは、むき出しの壁の蔭にかくまわれていた。
右手には一匹の羊がいて、
左手には風でヒュウヒュウと鳴る山査子、
羊や山査子の傍らでわたしは
視線を凝らして見つめた、折しも
靄が眼下の森と野原を
見え隠れさせていた。帰宅中のことだった、
あの物憂い季節のこと、家に帰って
十日になるかならないかのころ、父が逝った。

「マイケル」をご紹介したことのある、ウィリアム・ワーズワースの自伝的叙事詩「序曲」から。父親の死をめぐる少年期の思い出が語られます。

ひつじ話

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