白い羊と黒い羊

この島は銅でできた柵で真ん中から二つに仕切られていた。島には無数の羊が群れをなしていたが、柵の一方の側の羊は白く、もう一方の側の羊は黒かった。
彼らはまた、一人の大男が羊を分けているのを見た。彼が一頭の白い羊をつかまえて柵越しに黒い羊の群れの方に投げると、この羊はたちまちにして黒い羊になった。反対に、彼が黒い羊を白い羊の群れの方に投げると、この羊は一瞬にして白い羊に変わるのである。この不思議な状景を見たメルドゥーンとその一行は恐怖にとらわれた。
メルドゥーンは言った。『この島に二本の棒を投げてみよう。もし棒の色が変わってしまったら、われわれがこの島に上陸した時、われわれの色も変わってしまうだろう。』彼らはそこで樹皮の黒い棒を白い羊の側に投げた。すると棒はたちまち白くなってしまった。つづいて今度は樹皮の白い棒を黒い羊の側に投げてみた。すると今度もまた棒はたちまち黒くなってしまったのである。
(略)
 おそらく、この島こそは生者の世界と死者の世界の境界なのであろう。そして、羊を分けている大男は生死を司る神、アイルランドの「すべての人の父」ダグザであり、ガリアの父なる神(ディス・パーテル)「槌を持つ神」であるに違いない。ダグザの持つ棍棒は一方の端で打てば死に、もう一方の端で打ては生き返るのだからである。ガリアの「槌を持つ神」の槌もおそらくは同様であろう。
これと同じ話はウェールズの古伝承『マビノギオン』の中の『エヴラックの息子ペレディール』にも見られ、生と死の境界についてのこうしたイメージがアイルランドにかぎらずケルト人たちにとって共通のものであったことをうかがわせるが、この話では柵の代りに川が境界となっていて、一方の岸に白い羊、もう一方の岸に黒い羊がおり、一頭の黒い羊がメエーと鳴くと、一頭の白い羊が川を渡っていって黒い羊となり、また逆に白い羊がメエーと鳴くと黒い羊が川を渡って白い羊となるのである。

「ケルト神話と中世騎士物語」 (田中 仁彦/中公新書)

白いヒツジと黒いヒツジがいったりきたり。
等価交換の原則です。
見てみたい……。

ひつじ話

Posted by


PAGE TOP