「マナス 少年篇―キルギス英雄叙事詩」

隊商の連中はゲームのために路上に画かれた輪もゲームに熱中する少年たちも全く眼中になかった。
折しもマナスが輪の中央に置かれたサイコロを打ち出すために、輪の中に入って行ったところだった。
「駱駝を輪の中に入れるな!」
と輪の周りにいた者たちが言った。
駱駝の手綱を取るサルト人らは、「駱駝を進めなかったらどうする!? 放っとけ! サイコロが弾かい? やつらに何ができる!?」と思った。
カルマク人らも同様に、「おれたちはハーンの者だ。やつらに何ができる!?」と思った。
駱駝が次々と皇宮取りの輪の中に足を踏み入れ始めた。
マナスは打棒に手をのばしてこれをつかむと、羊のくるぶしの骨でできたサイコロを打棒で打った。
打棒の端で力一杯打ったので、サイコロが鉄の弾のように先頭の駱駝に向かって飛んで行って、その片脚を粉砕した。
駱駝がばったりと倒れた。
さらにもう一つのサイコロが飛んで行って、前にいた驢馬の脚に同じく命中し、驢馬が倒れた。

キルギスの叙事詩「マナス」から。
のちの英雄である少年マナスが、隊商をよそおった敵方の密偵団にケンカを売る場面なのですが、武器として羊の距骨のサイコロが使われています。
このサイコロに関しては、これまでに何度かお話したことがありますので、こちらで。
遊び方は場所や時代によってさまざまですが、マナスたちの興じている「皇宮取り」ゲームについては、同書の註釈に詳細な説明がありました。下に引用します。

このゲームは、キルギス語でオルド(皇宮の意)と呼ばれる。
遊ぶときには、人員を二組に分け(各組二人以上)、平らに踏みならした地面に大きな輪(直径十メートル前後)を画き、たくさんのサイコロ(羊のくるぶしの骨製)を輪の中央に置いて、かわるがわる牛の骨製の四角い骨で打ってはじく。
輪の外に打ち出した数の多い方が勝ちとなる。
このゲームは皇宮を攻め落とす戦いを模したことから皇宮取りと呼ばれるようになったという。

ひつじ話

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