福沢諭吉 「羊飼ふ子供狼と呼びし事」

羊飼ふ子供狼と呼びし事
羊の番する子供ありて、或日なぐさみに同村の者を驚かさんと思ひ、「おほかみおほかみ」と呼はりて走りければ、村の人々は狼の来りて羊に掛りしことならんと心得て、忙はしくかけ出し、その場に至り見れば何事もなきゆゑ、つまらぬことなりとてこの子を叱りて銘々の家に帰りたり。
その後数日を過ぎ、現に狼いで来りて群りたる羊へ飛掛りければ、子供はあわて、村に帰りて「おほかみおほかみ」と声を限りに呼び叫べとも、村の物は落付はらひ、最早二度はだまされぬぞとて見向く者もあらず。
解説
福沢は『窮理図解』『世界国尽』『啓蒙手習之文』『学問のすゝめ』初編、『童蒙教草』(どうもうおしえぐさ)などの子供向き著作を相次いで刊行しているのであるが、どれも子供に解りやすいようにと、話し言葉の語彙を多量に取り入れた文体を用いたり、挿絵をふんだんに入れたりするなど、工夫をしながら、人として必須と思われる知識を提供したのであった。
本書に掲載した「イソップ物語 抄」は、『童蒙教草』から採ったが、『童蒙教草』の原本はスコットランドCHAMBERS社刊行の“THE MORAL CLASS-BOOK”であって、もとはイギリスの少年向け道徳書である。
したがって原文は英語で、キリシタンの宣教師たちが十六世紀に日本に伝えたイソポのファブラスとはいささか趣を異にしている。

福沢諭吉の「童蒙教草」より、イソップ寓話のいたずらな羊飼いのお話を翻訳したものを。いろんなことしてたんですね、福沢諭吉。
イソップ寓話の最古の日本語訳である「イソポのファブラス」については、「狼と羊の譬の事」をご紹介しています。

ひつじ話

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