「ディアルミドとグラーネの恋物語」
「ディアルミドはある日、フィアナ戦士団の三人、コナン、オスカル、それにゴル・マク・モルナと狩りに出かけた。一日中狩りをして、山のふもとに日が陰るころ、四人は山小屋を見つけた。そこには老人と娘が、牡羊と猫と共に住んでいた。
戦士たちは宿を乞い、老人は快く中に入れてやった。ところが四人が食事の席についたとたん、羊が食卓に跳び乗って皿や杯をあっちこっちに蹴り飛ばしてしまった。あまりにも無礼なふるまいに戦士たちは腹が立ち、食事も喉を通らない。四人はかわるがわる牡羊を引き下ろそうとするが、羊は男たちを振り払い、足で踏みつけて、まるであざ笑うかのようにメェーッ、メェーッと鳴きたてる。みっともないありさまだった。
そこへ老人が現れ戦士たちを嘲るように一瞥すると、猫に向かって、羊をのけろ、と言った。すると猫は後ろ脚で立ちあがり、前脚で羊の首をつかんで首輪をはめ、静かに食卓から下ろして小屋の隅の羊小屋の鎖につないだのである。面目を失った四人の戦士は席を立って山小屋を出たのだった。」
ドルイドは、他の者に聞かれないよう、顔をグラーネに向けて低い声で話した。一方グラーネはそこまで慎重ではなく、話を聞いている間じゅうディアルミドから目を離さない。ドルイドは話を続けた。
「戦士たちが山小屋の戸を閉めて夜の闇に出ていくと、小屋の老人は四人の後を追って呼び戻し、こう言った。『お前さんたち、いま見たのが魔法だったことがわからんのかね。』老人は、たったいま起こったことが何を意味しているのかを、四人に話してやった。『お前さんたちの相手をした羊は、世界そのもの、つまり生の力じゃ。それから猫は、それとは正反対の力、つまり死の力、暗闇じゃ。』
先日、「キルフフとオルウェン」のお話をご紹介した「ケルトの神話・伝説」から、もうひとつ、アイルランドの伝説「ディアルミドとグラーネ」を。
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