ジョット 「羊飼いのもとに赴くヨアキム」

ひつじ話

「羊飼いのもとに赴くヨアキム」
1304?05年 フレスコ 200×185センチ
パドヴァ、スクロヴェーニ礼拝堂
(略)
深い思索にふけるヨアキム、主人が来たので喜ぶ犬、怪訝そうに見つめる二人の羊飼い。
書き割りのような背景の山と木は素朴だが、ヨアキムの沈んだ気分を暗示しているかにみえる。
聖なる物語が、このような人間的ドラマとして表現されたことは、それまでにはなかった。

ジョット・ディ・ボンドーネのスクロヴェーニ礼拝堂壁画、「羊飼いのもとに赴くヨアキム」を。以前ご紹介した「ヨアキムの夢」と同じ壁面に並ぶ、「ヨアキム伝」の一場面です。
ヨアキムを描いたものは、他に、ギルランダイオの「神殿から追い出されるヨアキム」をご紹介したことがあります。

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ドストエフスキー 「死の家の記録」

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わたしは、しかし、煉瓦運びを愛したのは、この作業で体力がつくからだけではなかった。
さらに、この作業がイルトゥイシ河畔で行われたからである。
わたしがしばしばこの河畔のことを言うのは、他に理由はない、ただそこからは神の世界が見えたからである。
(略)
わたしにとって、そこにあるすべてのものが貴く、そしていとおしかった。
果てしない紺碧の大空に輝く明るい熱い太陽も、遠い対岸キルギスから流れてくるキルギスの歌声も。
長いことじっと目をこらしていると、そのうちに、遊牧民の粗末な、煤煙で黒ずんだ天幕らしいものが見えてくる。
天幕から小さな一すじの煙がのぼり、キルギス女が一人忙しそうに二頭の羊の世話をしている。
それらはすべて貧しく、粗野ではあるが、しかし自由である。

フョードル・ドストエフスキーによる、シベリアへの流刑体験に基づく「死の家の記録」から。

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赤像式クラテル(続き)

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クラテル
紀元前425年頃
ギリシア、アテネ出土
高42.3センチ、直径47センチ
このクラテルに描かれている場面から、古代アテネ人の宗教的慣習について多くのことを知ることができる。
垂れ下がった花冠と花輪で飾られた雄牛の頭蓋骨から、聖域で儀式が行われていることが分かる。
儀式に参加している男性は皆、丈の長い衣装と葉冠を身につけている。
左側では、若い男性が生贄とされる羊を導いており、その後ろで一人の男性が2本の管楽器、アウロスを奏でている。

 「古代地中海世界の美術」展カタログ 

先日の、ペリアスの死を描いたものに続いて、クラテルをもうひとつ。羊を使った動物供犠の場面のようです。

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アドリアン・デ・フリース 「ルドルフ二世像」

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ルドルフ二世

アルチンボルド関係などで何度かお話しているハプスブルク家の神聖ローマ皇帝ルドルフ二世ですが、画像をご紹介したことがありませんでしたので、あらためて。胸に金羊毛騎士団勲章をさげた、アドリアン・デ・フリースによる胸像です。
金羊毛騎士団勲章のお話はずいぶんしておりますので、こちらでまとめてぜひ。

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羊飼いと羊図ゴールド・サンドウィッチ・グラス坏残欠

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ゴールド・サンドウィッチ・グラス
3世紀─4世紀 イタリア 径9.7センチ
コップの底や側面に金箔を熔着し、文様をエッチングして再加熱、その上に透明ガラスを被せかけて作ったゴールド・サンドウィッチ・グラスは、多くローマのカタコンベで発見され、キリスト教の図像が描かれているのが通例である。

 「世界ガラス美術全集1 古代・中世」 

初期キリスト教のゴールドサンドイッチガラスです。アメリカ、コーニング・ガラス美術館所蔵。

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赤像式柱形クラテル

ひつじ話

赤像式柱形クラテル
伝 アエギスタスの画家作
ギリシア、初期クラシック時代、紀元前470年頃
陶器
ギリシア、アテネ出土
高37センチ、直径33センチ(口部分)
このクラテルは、ワインを混ぜるための堂々とした容器で、イオールコスの王位を奪ったペリアースの死というギリシア神話の中の大変面白い場面が描かれている。

 「古代地中海世界の美術」展カタログ 

以前お話した、『転身物語』より「ペリアス」の一場面を描いた、古代ギリシアのクラテルです。右にメデア、左に娘に手を引かれたペリアス。そして中央の大釜で羊が煮られているようです。

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『美味礼讃』より、「コーヒーについて」

ひつじ話

コーヒーの木は最初アラビアで発見された。
その後ほうぼうに移植されたけれども、最良のコーヒーは今でもやはりアラビアから来る。
古くからの言い伝えによるとコーヒーは羊飼いに発見された。
かれは、羊どもがコーヒーの木の漿果を食べた時はいつも興奮してはしゃぎだすのを見たのである。
こういう昔話はさることながら、発見者たるの名誉はこれを全部くだんの羊飼いに帰するわけにはいくまい。
半分は何といっても最初にこのコーヒー豆を炒ることを思いついた者に与えなければならない。

ブリア=サヴァランの『美味礼讃』から、「コーヒーについて その起源」の章を。
コーヒーの起源を説明するカルディ伝説は、普通はヤギの話として語られてるように思うのですが、こちらの本では「羊」になってるので、とりあえず。サヴァランの原文でも羊なんでしょうか、これ。

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ヴァチカン美術館所蔵、3世紀末の石棺

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石棺 石棺(部分)

初期キリスト教の定番モチーフである善き羊飼いが彫られた石棺です。
石棺はいくつかご紹介したことがありますので、こちらでぜひ。

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ラ・フォンテーヌ『寓話』より、「狼と子羊」

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『寓話』より「狼と子羊」
強者の理屈はつねに通る。
すぐにその証明をするとしよう。
一匹の子羊が澄んだ流れで
喉のかわきをいやしていた。
そこへすきっぱらの狼、何かいい獲物はないかと現れた、
ひもじさにこの場所に誘われて。
「いつからこんなに厚かましくなった、おれの水を濁すとは」

原典のイソップ寓話「狼と仔羊」と、江戸時代の翻訳である『伊曾保物語』の「狼と羊との事」に対応する、ラ・フォンテーヌ『寓話』バージョンの「狼と子羊」です。引用は現代教養文庫版からなのですが、ギュスターヴ・ドレの挿絵をまとめて眺められるのが高ポイントです。
これまでにご紹介したラ・フォンテーヌの寓話は、こちらで。

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「アフリカ農場物語」

ひつじ話

遠く、コピの向こうで、息子のウォルドーが羊の番をしていた。
埃まみれの雌羊と仔羊の小さな群れだった。
ウォルドーは、赤い砂を頭のてっぺんから足の先までかぶり、ぼろの上着をまとい、なめしていない皮の靴からはつま先がのぞいていた。
帽子は大きすぎて目の上までずり落ち、黒く柔らかい巻き毛は、すっぽりとその中に隠れていた。
小さな奇妙な姿だった。
羊の群は、ほとんど何も問題を起こさなかった。
あまりの暑さに羊も遠くへは行かず、日陰を求めて小さなミルクブッシュの茂みの一つ一つに群がり、かたまってじっと立っていた。

19世紀南アフリカの女性作家オリーヴ・シュライナーの小説「アフリカ農場物語」を。作者の実体験に基づいた風景の描写が、物語に彩りをそえています。羊、多そうですね。

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サン・イシドロ聖堂扉口彫刻

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扉口彫刻のイサクの犠牲
父親アブラハムが中央軸を占め、右手に持つナイフで、自分の息子イサクを刺そうとしている。
彼の左手は、息子イサクの髪をつかんでいる。
彼らの左側には、神の大きな手が出てきて、犠牲の子羊を、代りに差し出している。
(略)
扉口で一番重要な場所とも言える半円のティンパヌムに、旧約聖書の物語が表現されるのは珍しい。
ここでは、《イサクの犠牲》を表現することにより、上部にある神の子キリストの象徴たる子羊の犠牲を、予示しているのである。

先日ご紹介した王家墓廟天井画に続いて、もうひとつ、レオンのサン・イシドロ聖堂を。聖堂扉口のティンパヌム部分にある、イサクの犠牲をモチーフにした彫刻です。
イサクの犠牲テーマについては、こちらでまとめてぜひ。

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前涼の玉の臥羊

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臥羊
前涼(314─376)
長15センチ
(略)
羊は遊牧民族の生活には欠かせぬ家畜であり、ここでは誇張した表現もなく、脚を揃えて臥した羊が親しみ深く表される。
玉は古来漢民族がことのほか愛玩したものであり、従って五胡十六国時代の玉器の出土は極めて稀であるが、これも前涼の張氏が漢族出身のためであったろうか。

 「中国 美の十字路展」カタログ 

甘粛省出土の、五胡十六国時代の玉器です。甘粛省博物館蔵。
玉の羊は、台北の故宮博物院のものをご紹介したことがあります。

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ティツィアーノ 「聖愛と俗愛」

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「聖愛と俗愛」 「聖愛と俗愛」(部分)

ティツィアーノの「聖愛と俗愛」です。遠景にこっそり羊の群れが。「ノリ・メ・タンゲレ」もこんな感じでしたね。ボルゲーゼ美術館所蔵。
これまでのティツィアーノは、こちらでぜひ。

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レオン、サン・イシドロ聖堂天井画

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「羊飼いへのお告げ」
明快なデッサンで形づくられた個々の形態は、いずれも軽妙で、生命感にあふれている。
構図と色彩、形態表現が相まって、全体に伸びやかで生き生きとした「牧歌的情景」を現出させたこの作は、スペイン・ロマネスクの成熟と洗練をありありと物語っている。

スペインはレオンのサン・イシドロ聖堂、王家墓廟の天井画のひとつである「羊飼いへのお告げ」です。
羊飼いへのお告げを描いたものは、時祷書をいくつかと、ブレイクレンブラントヤコポ・バッサーノなどをご紹介しています。

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MOA美術館所蔵 「洋人奏楽図屏風」

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洋人奏楽図屏風(部分)
貴族たちの田園での遊楽シーンはジョルジョーネの「田園の奏楽」を例にするまでもなく、文学でも古代ローマ時代からの主題であり、十六世紀には西欧各国で類似した文学作品も生れている。
(略)
そういうものに当時の日本人が親しむ機会があったとしたら興味ぶかいことであるし、そうでなくてもこのような主題は、日本画の「花下楽園図」「高雄観楓図」などとも共通する田園遊楽図として受入れられたと思われる。

ずいぶん以前になんどか触れたままになっている、日本画の小さな羊のお話をあらためて。MOA美術館所蔵の、桃山時代の屏風です。六曲一双のうち右隻の前景に、ミニサイズの羊たちがわらわらしてます。

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