ブルフィンチ『ギリシア神話と英雄伝説』より、「アドメートスとアルケースティス」

ひつじ話

アポローンの息子アスクレーピオスは父親から医術の業を授けられたので、死んだ人間を生きかえらせることすら出来たのである。
こうしたことに懸念を抱いたハーデースがゼウスを説得して、アスクレーピオスに雷霆を投げてもらった。
ところがアポローンは息子の死に憤慨して、雷霆を造った罪のない名匠に自分の恨みをぶちまけて復讐しようとしたのだった。
(略)
アポローンはこのキュクロープスたちを自分の矢で射殺したのであるが、ゼウスは非常に激怒してアポローンに罰を与えることにし、一年間、人間に仕えるよう命令したのである。
そこで、アポローンはテッサリアのアドメートス王に仕えることになり、アムプリュソス川の新緑におおわれた川岸で王のために羊や牛の群れを放牧して面倒をみていたのである。

トマス・ブルフィンチのギリシア神話から。
イリアス」の冒頭に、

そもそも二人を争わしめたのは、いかなる神であったのか。
これぞレトとゼウスの御子(アポロン)、神はアトレウスの子が祭司クリュセスを辱めたことを憤り、陣中に悪疫を起し、兵士らは次々に斃れていった。
クリュセスは捕われの娘の身柄を引き取るべく、莫大な身の代を携え、手に持つ黄金の笏杖の尖には遠矢の神アポロンの聖なる標、羊の毛を結んで、

という一節がありまして、アポロンの羊の毛ってなんなんだろうとずっと不思議に思ってるのですが、やっぱり、この羊飼い暮らしのことを指しているんでしょうか。

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「犯罪」

ひつじ話

警察は駅に問い合わせをし、伯爵の邸を家宅捜索し、誕生パーティの客全員に事情聴取した。
ザビーネの行方は一向に知れなかった。
監察医が葉巻ケースのなかにあった目玉を調べた。羊の目玉だった。フィリップの衣服に付着していた血も動物のものだった。
フィリップが逮捕されてから数時間後、ひとりの農民がまた家の裏手で羊が殺されているのを発見した。
農民は羊を肩に担いで、雨のなか、野道を歩いて交番までやってきた。
毛皮が水を含んでずっしり重く、血と雨水が農民のジャケットからしたたっていた。

フェルディナント・フォン・シーラッハの、実話をもとにした短編集『犯罪』の一編、「緑」を。
妄想にとりつかれて羊を殺しつづける青年フィリップ。彼の友人であるザビーネが行方不明になったことから、フィリップは殺害容疑を向けられますが……。

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ヘンリー8世のツノ付き兜

ひつじ話

ヘンリー8世のホーンド・ヘルメット
この注目に値する強化兜は、神聖ローマ皇帝マクシミリアンからヘンリー8世へ贈られた。
これは同時に、ハプスブルク家、ヴァロワ家そしてテューダー家がお互いに優越を競ったとき、ヨーロッパにおけるヘンリーの重要性を証明している。

16世紀、ヘンリー8世マクシミリアン1世から贈られたツノ付き兜です。
非常に魅力的な造形ですが、ウィキペディアで鍛冶師コンラート・ゾイゼンホーフェルの項を見るかぎりでは、なにかと含みのある説明が。

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コバン墓地遺跡出土 雄羊頭部形下げ飾り

ひつじ話

雄羊頭部形下げ飾り
コバン墓地遺跡(北オセチア)(?)
紀元前一千年紀前半
ブロンズ 鋳造 高さ5.8センチ

 「エルミタージュ美術館名品展 ─生きる喜び─」カタログ 

コーカサス地方、コバン文化の青銅の装飾品です。

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ヘッセ 「ハンネス」

ひつじ話

翌日彼は二人の連れとともに出かけ、羊飼いを探し、そして辺ぴな荒野に彼の姿を見つけた。
羊飼いは兄を愛想よく迎え、パンとミルクをさし出し、彼と家族の具合を尋ねた。
それで兄は、ひどい言葉を述べる前に、羊飼いの態度にひどく心を動かされたので、弟に許しを乞い後悔して帰って行った。
この最後の話を聞いて、ハンネスに悪意を抱く人はみんな何も言えなくなってしまった。
そしてこの話はいつも新たに尾ひれをつけて語られた。

ヘルマン・ヘッセの短編「ハンネス」を。
町の外に暮らし、相談におとずれる人々には助言と励ましを与え、聖なる隠者のように慕われる羊飼いハンネス。しかし、その手にあまる災厄が町を襲ったとき、彼がなしえたこととは。

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八卦十二支方鏡

ひつじ話

八卦十二支方鏡 八卦十二支方鏡(部分)

「大唐皇帝陵」展カタログ

7世紀、唐の銅鏡です。右上の角が未だと思うんですが、いまひとつ自信がありません。
ところで、銅鏡つながりでお知らせをひとつ。
奈良国立博物館で、平成23年10月29日(土)から11月14日(月)まで開催される第63回正倉院展に、以前ご紹介した十二支八卦背円鏡が出陳されるようです。お近くならばぜひとも。

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ルノワール 「畑からの帰り道」

ひつじ話

「畑からの帰り道」

 「フィッツウィリアム美術館所蔵 フランス近代風景画展」カタログ 

ピエール=オーギュスト・ルノワールの「畑からの帰り道」です。1880年代ルノワールの特徴的な画風。

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5世紀カルタゴの「よき牧者」の石棺

ひつじ話

「よき牧者」の石棺
カルタゴにキリスト教文化が広まっていたことを顕著に示しているのは、美術的資料である。
たとえば、その洗練された装飾性が高く評価されている墓碑銘板には、迷える魂についてのキリストのたとえ話を題材にした、「よき牧者」の図が描かれている。

5世紀のカルタゴ、初期キリスト教美術に多く見られる「善き羊飼い(よき牧者)」が刻まれた、大理石の石棺です。
「善き羊飼い」のモチーフについては、まとめてこちらで。

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「罪を喰う人」

ひつじ話

一時間のうちに、かれが旅してきたのと同じ方向から、一人の羊飼いがやってきた。
背が高くて、ふしくれだった、やぶにらみの男だった。
ほとんど顔を覆ってしまっている赤毛のあいだから、小さいけれど青く澄んだ目が光っていた。
かれはだまってニールの前に立ち、連れていた羊によりかかった。
「ゴキゲンヨウ」と、かれはようやく口をひらいた、「ごきげんよう」と。
ニールはちらりと男を見たけれど、返事はしなかった。

19世紀末スコットランドのフィオナ・マクラウド(ウィリアム・シャープ)による『ケルト民話集』から、「罪を喰う人」を。
罪を負って死んだ者の葬儀の場で、死者の身代わりとなってその罪を喰う儀式を引き受けた旅人ニール。羊飼いとの会話をきっかけに、自らのあやまちに主人公が追いつめられていく場面です。

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ブロンズィーノと工房 「甲冑姿のコジモ1世の肖像」

ひつじ話

「コジモ1世の肖像」 「コジモ1世の肖像」(部分)
コジモが身につけている騎兵用軽装甲冑の胸元には、首から下げた金羊毛騎士団章が光っている。
これはコジモ1世が1545年8月11日に神聖ローマ皇帝カール5世から授与された最高の騎士勲章である。

 「フィレンツェ─芸術都市の誕生」展カタログ 

16世紀フィレンツェ、アーニョロ・ブロンズィーノ工房による、「甲冑姿のコジモ1世の肖像」です。
同時代のものとしては、ブロンズィーノ下絵のタピスリーをご紹介したことがあります。
なお、金羊毛騎士団についてはこちらを、カール5世についてはこちらをご参考にぜひ。

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シャルル=エミール・ジャック 「羊小屋」

ひつじ話

「羊小屋」

「ブルックリン美術館所蔵 バルビゾン派の画家たち展」カタログ

バルビゾン派を。シャルル=エミール・ジャックの「羊小屋」です。
これまでのジャックはこちらで。なかでも、「羊小屋」と似た、建物からの羊の出入りを描いたものとしては、「羊の群の帰り」「バルビゾンの農家」をご紹介しています。

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ジャン=ヴィクトール・ベルタン 「羊と縫い物をする女のいる風景」

ひつじ話

「羊と縫い物をする女のいる風景」 「羊と縫い物をする女のいる風景」(部分)

フィッツウィリアム美術館所蔵 フランス近代風景画展」カタログ

19世紀フランス、ジャン=ヴィクトール・ベルタンの「羊と縫い物をする女のいる風景」を。
バルビゾン派の巨匠であるコローの師として知られる人物でもあります。以前、「古典的な風景」をご紹介したことが。

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ワット・ククットの窓飾り

ひつじ話

ワット・ククットの窓飾り

先日から、十二支づいてます。こちらは、タイ北部ランプーンの寺院ワット・ククットの十二支の窓飾りから。「亥」にあたる動物が「象」になってるのが変わってますが、他は日本と共通しているようです。

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西安市出土 加彩十二支俑

ひつじ話

加彩十二支俑 加彩十二支俑 未
古代中国が発祥の十二支は、年・月・時刻や方角をあらわすのに用いられてきた。
各十二支に割り当てられた動物を中国では十二生肖(せいしょう)といい、古くから彫像や絵画などに表現されてきた。
生肖の「生」は生き物、「肖」は「象る」の意味がある。
十二支俑も十二生肖を表現したもののひとつで、動物そのものの形象のほかに、本例のように動物の頭に人間の体をもつ獣頭人身の形や、文官が手に十二支の動物を抱えた姿、あるいは頭上に十二支の動物を載せた姿などで表現された。
12体の俑を各方角へ配置することで、墓内に侵入する邪気を払う役割を果たしていたと考えられる。

 「大唐皇帝陵」展カタログ 

 

8世紀、唐の十二支俑です。
獣頭人身の十二支の造形は、これまでに、重慶市から出土した初唐の十二支俑韓国の伝景徳王陵及び伝金庾信将軍墓の浮彫円明園の噴水をご紹介しています。

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「羊飼いの男」

ひつじ話

太陽が沈んだ後の夕映えが辺りを包み込んでいる。
男は小高い丘の上に立っていた。
丘を下った所に羊の群れがいて、犬が羊達を追いたてている。
それだけの絵だった。
(略)
次の瞬間、風が吹いた。
小高い丘に向かって吹きつけてくる風は、草原の匂いがした。
羊達の啼き声が耳に届いた。

阿刀田高選の“寄せられた「体験」”シリーズ『もちろん奇妙にこわい話』、巻頭の一作「羊飼いの男」です。
美術品を前にした主人公が作品世界にさらわれかける、というお話なのですが、入った先にいるのが羊の群れだと思うと怖がれません。

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