「ゲルのコスモロジー」

ひつじ話

日時計としてのゲル
ゲルは時計でもあった。
時計のない時代のモンゴル人は、ゲルのある部分に太陽の光が当たるのを見て時を知ったのである。
たとえばウサギの刻[午前六時]に陽光がゲルにさし込む。
辰の刻[八時]、巳の刻[十時]、午の刻[十二時]、未の刻[十四時]、申の刻[十六時]、酉の刻[十八時]には、ゲルのどのあたりに光が当たるかについて季節や地方によって使い分けていたのである。
そして、この決まりは、牧民の日々の労働にもかかわっていた。
たとえば、牛の乳搾り、羊の放牧、羊の昼の搾乳、移動、羊の水やりなどすべて太陽時計、つまり、ゲル時計で行なっていたのである。

モンゴルの移動式住居ゲルについて考察する「遊牧民の建築術」から。
ゲルは、ふつう出入り口を南にして建てるもので、居ながらにして日時計として使えるのだそうです。便利。

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羊の肝臓をもつ人物像

ひつじ話

納棺容器の蓋
納棺容器の蓋
アラバスター
高さ52センチ、長さ76センチ、幅22センチ
紀元前1世紀前半
ヴォルテッラ、グァルナッチ博物館
過去の文明において普及していたこの宗教行為は、エトルリア人の宇宙観に基づいていた。
つまり、犠牲獣の肉体の各器官、さらにその各部分は小宇宙であり、そこに宇宙の秩序が反映されているのである。
(略)
このタイプの占いにとって最も重要な器官は肝臓であるとみなされていた。
エトルリアの聖職者(肝臓占い師)が肝臓を手にしている状態を表した様々な考古学的遺物が現存するだけではなく、テラコッタ製や青銅製の肝臓の模型自体までもが発見されている。

「エトルリア文明展 最新の発掘と研究による全体像」カタログ

先日ご紹介したピアツェンツァの肝臓に関連して。
羊の肝臓を手にした人物が表された納棺容器の蓋です。生前、肝臓占いに関わった人物が納められたのでしょうか。

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「平台がおまちかね」

ひつじ話

今の自分の言動、おかしなところはなかったよなと、ただちに反省会を開いてしまう。
まずそこを振り返ってみないと先に進めない。
ぶつぶつ言うかわりに唇を噛んでいると、肩をつつかれた。
「どうしたの、ひつじくん。すっかり仔羊ちっくな顔になっているよ。ぼくの好みからすると、君はいつもそうやって、途方に暮れていると楽しいのに。お兄さんが助けてあげるから話してごらん」
他の出版社の営業マンだ。
「いいですよ。ひつじじゃなくて、井辻ですし」

大崎梢のミステリです。人情味のある「日常の謎」ものですね。
新米出版社営業、井辻くんが遭遇する、書店と本にまつわる事件の数々。脇をかためる人々がまた良いのですよ。このラテン系の先輩とか。

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「アルプスの画家 セガンティーニ ─光と山─」展

ひつじ話

ジョヴァンニ・セガンティーニの展覧会が開かれていると知って、静岡市美術館に行って参りました。
こちらの美術館ははじめてだったんですが、JR静岡駅前に建つ大きなビルの中にあって、非常に便利です。
入り口
ポスターの作品は、セガンティーニ美術館所蔵の「アルプスの真昼」ですね。同じタイトルの別ヴァージョンが大原美術館にあって、そちらはご紹介したことがあります。
ほかには、国立西洋美術館「羊の剪毛」が展示されてます。知らずに、この夏上野まで見に行って、なんで展示されてないんだろうと首をひねってしまってました。お恥ずかしい。
羊が描かれたものは数多くありましたが、なかでもみごとなのは、こちらの「羊たちへの祝福」かと。

「羊たちへの祝福」
聖セバスティアヌスの日に司祭が病気や事故から守るため、農民の羊たちに祝福を与えるというカトリックの風習を描いている。

 「アルプスの画家 セガンティーニ ─光と山─」展カタログ 

こちらの展覧会は、平成23年10月23日(日)まで静岡市美術館、その後、平成23年11月23日(水)─12月27日(火)の期間、損保ジャパン東郷青児美術館に巡回するようです。ぜひ。

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「ハードウィック述、 羊喰い実録」

ひつじ話

「羊喰い実録」
王立アジア協会が1833年に出した紀要の抜萃で、『トマス・ハードウィック述、ヒンドスタンの羊喰い実録』と題された冊子。

荒俣宏の近代西洋版画案内から。1796年にインド総督ハードウィックが見物した「羊喰い」の儀式を報告する石版画の一部です。
話は変わりますが、先日、ラグビーワールドカップのエンブレムペイント羊を教えてくださったak様から追記をいただきました。ありがとうございます。

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ひょっとして、全チームいたりします?

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十二支蒔絵象嵌印籠

ひつじ話

十二支蒔絵象嵌印籠 十二支蒔絵象嵌印籠(部分)
十二支蒔絵象嵌印籠 銘「古満寛哉 花押」
古満寛哉作
江戸時代・19世紀
縦8・1 横5.9 高2・0

 「男も女も装身具 江戸から明治の技とデザイン」展カタログ 

江戸時代の印籠です。金地に、それぞれ違った技巧がこらされた十二支の動物たち。

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ブレイク 「羊飼いに顕われる天使」

ひつじ話

「羊飼いに顕われる天使」 「羊飼いに顕われる天使」(部分)
翼のない男女の天使の身体と衣が、ベツレヘムの野で羊飼いたちの頭上に光の輪をつくる。

ウィリアム・ブレイクです。古典的な生誕劇の中に現れる異様な天使たちと、とくに動じてなさそうな羊たち。
これまでにご紹介しているブレイクは、こちらで。

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梅棹忠夫 「モンゴル遊牧図譜」

ひつじ話

ヒツジをたべる
ヒツジを解体して、すこし塩味をつけて大鍋でにる。
銀製の大皿に肉をかさねてもり、客人に供するときは、ヒツジの脂肪尾をうえにのせ、そのうえにヒツジの頭をのせてだす。
ヒツジの頭上には、脂肪尾またはバターの小片をさいの目にきったものをのせる。
宴席がはじまるまえに、さいの目の脂肪またはバターを、炉にくべたりして、天地にささげる。

梅棹忠夫『回想のモンゴル』より「モンゴル遊牧図譜」を。ヒツジの食べ方について一章がとられています。脂肪尾のことにも触れられてますね。どういうものなのかずっと気になっているのですが、いまだに現物を見たことさえありません。なんとかしたいところです。

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ピアツェンツァの肝臓

ひつじ話

ピアツェンツァの肝臓
古代の人々は何か冒険をする時、必ず占い師にそれを開始するにふさわしい吉日を尋ね確かめてから行動に移った。
そのために、いくつかの文化では─そして特にエトルリア人の場合それが顕著であったのだが─動物犠牲と内臓占いが必要であった。
内臓の形を見て将来を占うわけである。羊の肝臓はそうした「腸卜(ちょうぼく)」に最もよく使用された動物の内臓のひとつである。

ピアツェンツァ出土の、青銅製の肝臓模型です。
エトルリアで行われていた内臓占いの、初学者のための教材ではないかとのこと。
同じものを、以前シュメル文明バビロニアのお話をしたときにもご紹介してますね。どこかでつながってるんでしょうか。

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シモーネ・マルティーニ 「荘厳の聖母」

ひつじ話

「荘厳の聖母」 「荘厳の聖母」(部分)

14世紀イタリア、シモーネ・マルティーニの「荘厳の聖母」です。聖母子をかこむ聖人たちの、向かって右中央に聖アグネスが。
これまでにご紹介している聖アグネスについては、こちらで。

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ウズベキスタンのチェス盤

ひつじ話

チェス盤 チェス盤(部分)
チェス盤
木 52.5×35? ブハラ 19世紀中期 ウズベキスタン国立美物館
チェスは古代インドを起源とし、ペルシアを経由して、ヨーロッパにもたらされた。
このチェスとチェス盤の特徴は、人物が民族衣装を着ているのはもちろん、建物や羊などイスラム様式で作られている。

中央アジア、ウズベキスタンのチェス盤です。ポーンが羊。

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「のろのろひつじとせかせかひつじ」

ひつじ話

「のろのろひつじとせかせかひつじ」
今日は、一年に一度の、毛を売りにいく日なのです。
のろのろひつじが、手ぶくろや双眼鏡をバッグにいれて、ほかにわすれものがないかどうか、たしかめていると、せかせかひつじがやってきました。
「きのう、あらった?」
「もちろん」
ふたりのからだの毛は、よくあらわれ、かわかされて、ふわふわでした。

蜂飼耳作、ミヤハラヨウコ絵、「のろのろひつじとせかせかひつじ」です。
描かれるのは、性格も価値観も違うふたりの羊が育む友情のかたち。やわらかな文体と絵柄の児童文学ですが、中身はむしろ大人向けです。
こちらの本は、TAKIさまに教えていただきました。ありがとうございます。

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イギリス民話 「ゴボン・シーア」

ひつじ話

むかしゴボン・シーアという男がいて、ジャックという名の息子があった。
ある日のこと、ゴボンは息子に羊の皮を売りに行かせようとして言った─「皮と、皮を売った金と、両方持って帰ってこい」
(略)
娘はこちらを見上げ、「こんなこと訊いちゃ悪いかもしれないけど、何をそんなに悩んでいるの?」と訊いた。
「おやじがこの皮をくれたんだけど、売った金と皮と両方持って帰らなきゃならないんだ」
「それだけのこと? ちょっとあたしに貸してみて。何でもないことよ」
そう言うと、娘は羊の皮を川で洗い、毛を取り、羊毛の代金をジャックに払い、これを持って帰んなさいと皮だけ返してくれた。
ジャックの父親はすっかり喜び、「それは頭のいい娘だ。きっとおまえにとっていい嫁になるだろう。も一度会ったら、その娘だと分かるか?」と言った。

「イギリス民話集」から、「ゴボン・シーア」の冒頭部分を。機転の良さを見込まれて嫁になった娘は、最後は親子の命まで救うことになるのですが、きっかけはなぜか羊の皮です。

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『大唐西域記』より「印度総説」

ひつじ話

裁判を行うには言葉を判断し笞や杖でたたくことはなく、質問に随って正直に答えれば、事実によって公平に罰を科する。
犯したことを否認したり、過失を恥じて自らの非をつくろおうとするものがあり、事実をはっきりさせようとして取り調べを行なうやり方に、すべてで水・火・称・毒の四種類がある。
(略)
毒というのは、一匹の牝羊をつかいその右股を切りひらき、訴えられているものが食べる分量[の多少]に随い、これに毒薬をまぜて右股の中におく。
事実であれば毒は効き目をあらわして死に、無実であれば毒はとまって蘇生する。

7世紀、玄奘三蔵による「大唐西域記」より、インドの裁判のようすを描いた一章を。

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回族の昔話 「太陽の返事」

ひつじ話

そこでイスマは、毛の長い羊の背に乗りました。
しかしイスマには、耳のわきで風がヒューヒューと響くのが聞こえるだけで、何千キロ歩いたのか、何万キロ歩いたのか、まったくわかりませんでした。
羊が止まったとき、すでに太陽のおふくろさんの家に着いていました。
(略)
太陽のおふくろさんはまた言いました。
「羊の毛は長く生えて、暑くて辛くて、とても歩きにくいそうよ」
太陽は言いました。
「それは簡単です。毎年ハサミで羊の毛を刈るのです。その毛で糸をよったり、服を織ったり、フェルトをのばしたり、というように、いろいろな使い道があるんですよ」

中国少数民族の昔話集から。
おじいさんを助けるためと、土を耕す良い方法を知りたい農夫や、毛がのびすぎた羊をどうしたものか知りたい牧夫の依頼を受けて、イスマ少年は太陽の家をたずねます。連れていってくれるのは、どういうわけか、牧夫のそばにいた毛ののびすぎた羊です。

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