脂尾羊は遊牧民の品種改良によるきわめて独創的な産物のひとつである。
このグロテスクな動物は、アラビアでは古代から記録に残っているし、現在でも、とくに中東と中央アジアの草原や高原の、遊牧民の文化が浸透しているところではよく見られる。
このヒツジが引きずっている尻尾は重くてかさばり、ビーバーの尻尾と同じくらいの幅になることもある。
自由に動けなくなると、たいへんなことになる。
ひどいときには、尻尾を運ぶためにヒツジに小さな荷車を取りつけなければならない。
だが、得られる恩恵はそうした不便をおぎなって余りある。
遊牧民の牛の肉は旅で鍛えられて筋肉質なのに対して、脂尾羊の尻尾の脂肪は驚くほどやわらかいのだ。
まるで即席の油のように、すぐに溶ける。
熱する時間がなかったり火をつけるためのたきつけが手に入らない場合でも、生のまま食べることができて、すぐに消化される。
この貴重な物質を、動物を殺さなくても切り取れる部分に集めることは、絶えず移動をつづける人びとにとってはなにものにもまさる天の恵みだった。
なんどかお話したことのある脂肪尾羊に関して、もう少し。殺さずに切り取って、そのまま食べる、のでしょうか……。