狼をいちばん恐れていた羊飼いと農民は、先祖伝来の敵に対して、防御の姿勢ともいうべきかずかずの迷信的な手段に訴えた。
たとえば、ラングドッグ地方では、はらんだ牝羊と子羊の数を数えることは、狼に家畜をさし示すことになり、実際に狼が食いにやってくると考えていた。
同じ理由から、ソローニュ地方の羊飼いは金曜日には牝羊を数えることを避けた。
また、狼を近づけないために、驚くべき処方箋や目をうたがうような手段に訴えた。
1566年に、『田舎の家』には「先頭の牝羊に野生のニンニクを縛りつけておくと、狼は牝羊の群れに何の害も与えない」と書いてある。
18世紀には、ディドロとダランベールによる『百科全書』は真偽のほどは保証しないという条件つきで、「地方経済にとって、大きな利益となるだろう」という新しい処置を紹介している。
狼の糞を羊に塗るというのである。その臭いを狼はひじょうに嫌うらしい、というわけである。
ヨーロッパの狼の文化史について語る「狼と西洋文明」から、羊飼いの狼除けのまじないのいくつかを。