フリードリヒの絵画では自然と人間とは同一性のなかで融合するのではなく、むしろ異質な個々の存在として向き合う。
このような自然への距離感は、《虹のある風景》(1810年)にも感じ取ることができよう。
この作品は、一般にゲーテの詩、「羊飼いの嘆きの歌」(1802年)を風景画に表したものと伝えられてきた。
(略)
両者を比較してみると、描かれた対象のいくつかに共通性は見られるものの、フリードリヒの風景画とこの切ない恋の詩には本質的な違いがある。
フリードリヒの羊飼いはゲーテの詩のように悲しみとともにいわば自然の大海に沈み、自然の一部と化す存在ではなく、むしろ、眼の前に広がるリューゲン島の自然を凝視し、見る行為によって積極的な主体性を得ている。
昨日のゲーテ「羊飼いのなげきの歌」に続いて、この詩に関係が深い絵画を。同時代人であるカスパー・ダーヴィト・フリードリヒの「虹のある風景」です。