だがしかし、泣き濡れているうちに、その嗚咽を
掻き消すような澄んだ音色が流れてきて、
それはどうやら、いや確かに、牧人たちの歌声を
交えつつ、森の鄙びた風笛が奏でる調べのようである。
起きあがって、音の在処へと覚束ぬ足どりで歩み寄り、
見れば白髪の老翁が一人、涼やかな木陰に座して
羊の群れの傍らで藤の小籠を編んでいる、
三人の牧童の歌と楽の音に聞き入りながら。
16世紀イタリア、トルクァート・タッソの叙事詩「エルサレム解放」から。
以前、ヴァランタン・ド・ブーローニュ「エルミニアと羊飼い」でご紹介した、異教徒の王女エルミニアが十字軍に襲われて森に逃げ込み、羊飼いたちにかくまわれる場面です。