「それでは皆さまに我らが一皿をお目にかけます」
師の声を合図に、陸桐が研ぎ澄まされて白い光を放つ包丁ですっと蓮の葉を開く。ふてくされた表情が消え、料理人の凛とした空気をまとった若者の動きは熟練の舞手のように美しい。
蓮の葉をはがした中には蒸された羊が一頭丸ごと入っており、ほくほくと湯気を立てている。
観衆のざわめきは納得のささやきに変わるが、程端と陸桐の工夫はそれだけに止まらなかった。程端が羊の腹から取り出したものは、米と香草を腹に詰めた鶏であった。
一人称はボク、外見は美少女、性格は辛辣、しかしてその正体は得体の知れない仙人さま。仁木英之の中華ファンタジー「僕僕先生」シリーズの二冊目「薄妃の恋」から、料理大会の顛末を描いた「羊羹比賽」を。「江泥羊羹」と呼ばれる料理が審査員席に出てくる場面です。
ひょっとして、これ、先日ご紹介した「没忽羊羹」が元ネタなんじゃないでしょうか。