「アルケミスト―夢を旅した少年」

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 少年が目を覚ました時、あたりはまだ暗かった。見あげると、半分壊れている屋根のむこうに星が見えた。
 「もう少し、寝ていたかったな」と少年は思った。彼は一週間前に見た夢と同じ夢を、その夜も見た。そしてその朝もまた、夢が終る前に目が覚めてしまった。
 少年は起きあがると、柄の曲った杖を手にして、まだ寝ている羊を起こし始めた。彼は自分が目を覚ますと同時に、ほとんどの羊たちも動き始めるのに気がついていた。それはまるで彼の生命から湧き出る不思議なエネルギーが、羊たちの命に伝わるかのようだった。彼はすでに二年間、羊たちと一緒に生活し、食べ物と水を求めて、田舎を歩きまわっていた。「羊たちは、僕に慣れて、僕の時間割りを知ってしまったみたいだ」と彼はつぶやいた。ちょっと考えてから、それは逆かもしれないと気がついた。自分が羊たちの時間割りに、慣れたのかもしれなかった。

パウロ・コエーリョの小説です。宝物を見つけるという夢を信じ、すべてを手放して長い旅に出る、羊飼いの少年の物語。
上はその冒頭部分、自分の見た夢にとまどいながらも、羊たちとの平穏な日々を過ごす少年の姿が描かれます。

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ヨーロッパのタピスリー 「手相占い」

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「手相占い」 「手相占い」(部分)
このタピスリーは、フランソワ・ブーシェの弟子のジャン=バティスト・ル・プランスの原寸大の下絵によって織られた「ロシア風の遊び」6枚連作のうちの一枚である。
ル・プランスは、(略)そのころ非常に流行していた中国趣味(シノワズリー)と競合していたスラヴ風エキゾティシズムの趣向を取り入れている。
(略)
本連作には縁飾り上部にフランス王家の紋章があり、国王からの贈物であることを示している。
すなわちこれらは、1782年にルイ十六世がバーゼルの大司教書記官長に贈ったものである。

18世紀フランスのタピスリー、「手相占い(「ロシア風の遊び」より)」です。
タピスリーは、他に、15世紀のフランドルで作られた「羊の毛刈り」をご紹介しています。

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ドービニー 「夕日」

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「夕日」 「夕日」(部分)

「中村コレクション秘蔵の名品 コロー、ミレー バルビゾンの巨匠たち展」カタログ

「夜明けの羊舎」をご紹介したことのある、シャルル=フランソワ・ドービニーの「夕日」です。

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ザンセツソウとレディ・トラベラー

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長いスカートと、日焼けを防ぐための日傘や帽子で鎧った十九世紀のレディ・トラベラーは何千マイルも旅をした。それも手紙や日記をしたため、絵を描き、さまざまなものを観察し、植物を採集し、伝道につとめ、珍しい品の収集を行ないながらである。
(略)
ニュージーランドも寒くて、リューマチがぶりかえしたうえに歯肉膿瘍になり、せっかくダニーディンに住むいとこのジョン・エニスを訪れたのに、あまり楽しめなかった。
彼はマリアンヌのためにめずらしい“ザンセツソウ”の標本を集めてくれていた。
vegetable sheep(植物の羊)という英語名をもつこの草は、小さな花が岩の上に固まって咲いている様子が山腹に寝そべっている羊にそっくりだった。
彼女はそれを本国に持ち帰り、チャールズ・ダーウィンのお土産にした。
※ザンセツソウ   キク科ラウリア属の植物。ニュージーランドとオーストラリアに約二十五種が分布。ほとんどのものが白毛に覆われ、苔状に生える。羊の牧草として重要であるといわれる。日本にも古くから導入され「残雪草」の名で山草店で売られている。

ヴィクトリア朝のイギリスに輩出した女性旅行家たちの伝記集から、キューガーデンのギャラリーで知られるマリアンヌ・ノースに関する一章を。先日ご紹介したザンセツソウが本国へのお土産になってます。

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トラキアのリュトン

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雄羊形リュトン
頭部は卓越せる技術で造形されている。鼻孔部分は表面が非常に流麗で、柔毛は同心円文で表されている。

 「バルカンに輝く騎馬民族の遺宝―古代トラキア黄金展」カタログ 

先日ご紹介したスキタイのものに続いて、古代トラキアの金のリュトンです。

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羊形兕觥(じこう)の続き

ひつじ話

羊形兕觥(じこう) 羊形兕觥(じこう)後部 
方形の蓋の先端は羊の首となり、曲った角と丸く脹らむ大きな目、剥き出した牙、大きな鼻がある。

 「周王朝・豊かなる遺宝 中国陝西省宝鶏市周原文物展」カタログ 

以前ご紹介したことのある羊形兕觥(じこう)のカラー写真(しかも背後からのもの付き)を見かけましたので、改めて。……あの顔の突起、牙だったのか……。

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ジュリアン・デュプレ 「羊飼いの女」

ひつじ話

「羊飼いの女」

「中村コレクション秘蔵の名品 コロー、ミレー バルビゾンの巨匠たち展」カタログ

昨日に続いて、バルビゾン派を。「羊飼いの女と羊の群れ」をご紹介している、ジュリアン・デュプレの「羊飼いの女」です。

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トロワイヨン 「牧場の牛と羊の群」

ひつじ話

「牧場の牛と羊の群」 「牧場の牛と羊の群」(部分)

「中村コレクション秘蔵の名品 コロー、ミレー バルビゾンの巨匠たち展」カタログ

「樹木のある風景の中の牛と羊」、 「市の日」「水を渡る牛」をご紹介している、バルビゾン派の巨匠コンスタン・トロワイヨンの「牧場の牛と羊の群」です。

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リシマコスのコイン(続き)

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リシマコスのコイン

 「古代トラキア黄金展」カタログ 

以前ご紹介した、羊の角がついたアレクサンダー大王のコインです。カラー写真がありましたので、あらためて。

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「ファーブル博物記」

ひつじ話

先頭にはロバたちが、身の回り品や食料を背負って進む。
(略)
旅の途中で生まれて、群れについて歩くには弱すぎる子ヒツジたちを、土地の民芸品の大きな笊の中にいれて、ロバの一頭が運んでいる。
かわいそうに子ヒツジたちは、ロバの動きにあわせて、メー、メー鳴く。すると母親たちも、ヒツジの群れの中からそれにこたえる。
(略)
アルプス地方の生け垣の中から切りとった、モチノキの杖をもち、粗布の大きなマントで肩を包んだこの男は、いったい何者だろう? それは群れの責任者で、羊飼いの親方だ。
かれのすぐあとに、愚かなヒツジの群れの指導者である雄ヒツジたちが道を進む。雄ヒツジの角は、鋭く螺旋状に二回り、三回りも巻いている。雄ヤギやロバと同じような白い木の首輪をしているが、名誉のしるしである特大の鈴には、鈴を鳴らす舌としてオオカミの歯がついている。
さらに赤い羊毛の房飾りが、もうひとつの栄誉のしるしとして、横腹と背中の毛につけてある。

ジャン・アンリ・ファーブルの「博物記」シリーズから、「人に仕える動物」の「ヒツジ」の章を。フランス南部での、羊の移牧の様子が描かれています。

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ヤコポ・バッサーノ 「羊飼いたちへのお告げ」

ひつじ話

「羊飼いたちへのお告げ」

 「イタリア・ルネッサンス・ヴェネツィア派名作展」カタログ 

「牧者の礼拝」「ノアの箱船に乗り込む動物たち」「楽園」をご紹介している、ヤコポ・バッサーノの「羊飼いたちへのお告げ」です。

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バッドランドオオツノヒツジ

ひつじ話

オオツノヒツジの仲間はかつて、カナダ南西部からカリフォルニア半島を含む北メキシコまで、北米大陸の広大な範囲に分布していた。バッドランドオオツノヒツジもその1亜種だった。
もともとはロッキー山脈に棲んでいたが、次第に南北ダコタ州とネブラスカ州に移動を始め、岩石がむき出しのバッドランドと呼ばれる地帯に棲息するようになっていた。
(略)
バッドランドオオツノヒツジの棲息する荒れ地には、アメリカの先住民スー族が住んでいた。
スー族はヒツジたちを捕らえて肉を食べ、皮を利用していたが、狩りの方法が一風変わっていた。
頭に角をつけて偽装し、群れに接近して捕まえるのだ。ただ、その数はごくわずかなものでしかなかった。
しかしヨーロッパ人のハンターたちは遠慮なしだった。バッドランドオオツノヒツジの角は、部屋飾りとして喜ばれた。

「子羊のぼうけん」「シートン動物誌」でお話しているオオツノヒツジ(ビッグホーン)の、絶滅した亜種についての解説です。

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「儚い羊たちの祝宴」

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パパは朝、夏さんに晩餐の仕度を命じた。夏さんはうやうやしく「かしこまりました」と言った後、淀みなく続けた。
「急な宴ですので、山海の珍味を整えることは難しいかと存じます。主菜には羊頭肉の薄切りはいかがでしょうか」
パパは眉をひそめた。
「羊頭というのは羊の頭か。そんなものが旨いのか」
「佳品でございます」
(略)
朝、費用の内訳にママが目を剥いた。
「なんなのこれは、どうしてこんなに」
見せてもらって、わたしも驚いた。『羊頭十二個』。羊をまじまじと間近で見たことはないけれど、あれはそんなに小さなものではない。一抱えはあるだろう。たぶん一個で六人分を充分まかなえただろうに、十二個だなんて。

米澤穂信の短編集「儚い羊たちの祝宴」より。以前ご紹介した厨娘が、物語のなかで重要なモチーフとして使われています。こちらの小説ではラストにややグロテスクなオチがつくのですが、やはり羊絡みではありますので、お嫌いでなければぜひ。

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