少年が目を覚ました時、あたりはまだ暗かった。見あげると、半分壊れている屋根のむこうに星が見えた。
「もう少し、寝ていたかったな」と少年は思った。彼は一週間前に見た夢と同じ夢を、その夜も見た。そしてその朝もまた、夢が終る前に目が覚めてしまった。
少年は起きあがると、柄の曲った杖を手にして、まだ寝ている羊を起こし始めた。彼は自分が目を覚ますと同時に、ほとんどの羊たちも動き始めるのに気がついていた。それはまるで彼の生命から湧き出る不思議なエネルギーが、羊たちの命に伝わるかのようだった。彼はすでに二年間、羊たちと一緒に生活し、食べ物と水を求めて、田舎を歩きまわっていた。「羊たちは、僕に慣れて、僕の時間割りを知ってしまったみたいだ」と彼はつぶやいた。ちょっと考えてから、それは逆かもしれないと気がついた。自分が羊たちの時間割りに、慣れたのかもしれなかった。
パウロ・コエーリョの小説です。宝物を見つけるという夢を信じ、すべてを手放して長い旅に出る、羊飼いの少年の物語。
上はその冒頭部分、自分の見た夢にとまどいながらも、羊たちとの平穏な日々を過ごす少年の姿が描かれます。