エル・グレコ 「羊飼いの礼拝」

ひつじ話

エル・グレコ 「羊飼いの礼拝」 「羊飼いの礼拝」(部分)

エル・グレコが幾度か手がけたテーマである「羊飼いの礼拝」のうち、縛られた子羊が目立っている、バレンシアのコルプス・クリスティ学院のものを。
エル・グレコは、「聖アグネスと聖マルティナのいる聖母子」をご紹介しています。

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読書亡羊

ひつじ話

臧(ぞう)と穀と、二人相與(あいとも)に羊を牧して、倶(とも)に其の羊を亡へり。
臧になにを事とせしかを問へば、則ち策を挟みて書を讀み、
穀になにを事とせしかを問へば、則ち博塞して以て遊べり。
二人は、事業は同じからざるも、其の羊を亡ふに於ては、均しきなり
伯夷は名に首陽の下に死し、盗跖は利に東陵の上に死す。
二人は、死する所同じからざるも、其の生を殘(そこな)ひ性を傷つくるに於ては、均しきなり。
なんぞ必ず伯夷を之れ是として、盗跖を之れ非とせんや。
●通釈
番人の臧と穀との二人が、それぞれ羊の群れの見張りをしていたが、どっちも羊に逃げられてしまった。
臧に何をしていて逃げられたのかと問いただすと、巻物をこわきにはさんで一心に書物を読んでいたということであり、
穀に問いただすと、夢中になってかけ事をして遊んでいたということであった。
二人はやっていたことは違うけれども、役目を怠って羊を逃がしたことは同じである
これと同じことで、伯夷は道義の名誉を守って、首陽山のふもとに隠れて餓死し、
盗跖は財物の利をむさぼって、東陵山上に追いつめられて死んだ。
この二人は、死にかたは違っているが、その生命を滅ぼし天性を損なったことは、どちらも同じである。
だから、なんで世上にいうように伯夷は正しくて、盗跖は悪いなどときめつけられようか。

 「全釈漢文大系16 荘子 上」 

他に気をとられて肝心なものを失ってしまう、という意味の故事成語「読書亡羊」です。出典は「荘子」。
それが利であれ仁義であれ、人間の天性ではない外部のものを優先する価値観こそが人を苦しめるのだ、という趣旨なのですが、その「天性」に羊がたとえられています。

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羊質虎皮

ひつじ話

或ひと曰く、人有り、自ら云いて孔を姓にし仲尼を字にし、其の門に入り、其の堂に升(のぼ)り、其の几(き)に伏し、其の裳を襲(き)らば、則ち仲尼と謂う可きか。
曰く、其の文は是なり。其の質は非なり。敢えて質を問う。
曰く、羊の質にして虎の皮、草を見て説(よろこ)び、豺(さい)を見て戦(おのの)く。
其の皮の虎なることを忘るればなり。
ある人がいった、「ここに人がいて、自分から、姓は孔で字は仲尼だといい、孔家の門を通り、その座敷に上がり、その脇息によりかかり、その衣裳を着たら、仲尼だといえますか」。
答えた、「外見はそうだが、内実は違う」。「あえて内実をおたずねします」。
答えた、「内実は羊なのに虎の皮をかぶり、草を見ると悦ぶが、山犬を見ると震えおののく。
虎の皮をかぶっているのを忘れるからだ(内実は変えられない)」。

前漢末期、揚雄の「法言」に典拠を持つ、「見かけ倒し」を意味する故事成語「羊質虎皮」を。
故事成語は、これまでに、亡羊補牢肉袒牽羊多岐亡羊以羊易牛などをご紹介しています。

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曲亭馬琴 「南総里見八犬伝」

ひつじ話

「(略) 罪籍既に定りぬ。律に于(おい)て赦しがたし。彼(あれ)縛(いましめ)よ」
と喚(よばゝ)れば、雜兵等走りかゝりて、
鈍平(どんへい)戸五郎を撲地(はた)と蹴倒し、押て索(なは)を懸しかば、
件の二人は劇騒(あはてさわ)ぎて、屠処の羊と恨みつ賠話(わび)つ
只諄々(ぐとぐと)とかき口説ば、金碗(かなまり)怒れる声を激し、
「汝に出て汝に返る、悪逆の天罰は、八ざきの刑たるべし。とくとく」
といそがせば、雜兵等はうけ給はり、立じと悶掻(もがく)罪人を、
外面(とのかた)へ牽(ひき)もてゆき、時を移さずその頸ふたつを、
緑竹(あをだけ)の串に貫き、実検に備る程に、
金碗ふたゝび令(げぢ)を伝えて、「彼(かの)玉梓(たまつさ)を牽け」といふ。

曲亭馬琴「南総里見八犬伝」冒頭の、玉梓斬首のエピソードから。
玉梓に先立って処刑される逆臣たちの狼狽ぶりが、「屠所の羊」にたとえられています。
無常観を表す日本の「屠所の羊」、「羊の歩み」のイメージについては、「源平盛衰記」「砧」などでお話しています。

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陝西歴史博物館の羊形兕觥(じこう)

ひつじ話

羊形兕觥

周代の青銅器です。陝西歴史博物館蔵。兕觥(じこう)というのは、酒器の一種。藤田美術館のものをご紹介したことがあります。

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李白 「送蕭三十一魯中。兼問稚子伯禽」

ひつじ話

「送蕭三十一魯中。兼問稚子伯禽」
    蕭三十一の魯中に之くを送り、兼ねて稚子伯禽に問ふ 
六 月 南 風 吹 白 沙。  六月、南風、白沙を吹き、
呉 牛 喘 月 氣 成 霞。  呉牛、月に喘いで、氣、霞を成す。
水 國 鬱 蒸 不 可 處。  水國鬱蒸、處(を)るべからず、
時 炎 路 遠 無 行 車。  時炎に、路遠くして、行車なし。
夫 子 如 何 渉 江 路。  夫子如何ぞ、江路を渉る。
雲 帆 嫋 嫋 金 陵 去。  雲帆嫋嫋(じょうじょう)、金陵に去る。
高 堂 倚 門 望 伯 魚。  高堂、門に倚って伯魚を望む、
魯 中 正 是 趨 庭 處。  魯中正に是れ趨庭の處(ところ)。
我 家 寄 在 沙 丘 傍。  我が家、寄せて在り沙丘の傍、
三 年 不 歸 空 斷 腸。  三年歸らず、空しく斷腸。
君 行 既 識 伯 禽 子。  君が行、すでに識る伯禽子、
應 駕 小 車 騎 白 羊。  應(まさ)に小車に駕して白羊に騎すべし。

先日の「金華牧羊兒」に続いて、李白をもう一度。
旅立つ人を見送るついでに、三年会っていない息子の消息を尋ねてくれるよう頼む、という内容です。
我が子の伯禽は白羊の引く小車に乗っていることだろう、という最後の一行が。そういう遊びがあったんでしょうか。

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李白 「金華牧羊兒」

ひつじ話

金 華 牧 羊 兒。  金華牧羊の兒、
乃 是 紫 煙 客。  乃ち是れ紫煙の客。
我 願 従 之 遊。  我、之に従つて遊ばむことを願へども、
未 去 髪 已 白。  未だ去らざるに、髪、すでに白し。
不 知 繁 華 子。  知らず、繁華の子、
擾 擾 何 所 迫。  擾擾として、何の迫るところぞ。
崑 山 採 瓊 樹。  崑山に瓊樹を採らば、
可 以 錬 精 魄。  以て精魄を錬るべし。

李白の「金華牧羊兒」です。
金華山中で羊を牧しながら、神仙となった黄初平への憧れが主題となっています。
黄初平に憧れているうちに白髪頭になってしまった、世上はなぜこうも忙しないのか、崑崙山に行けば仙人になれるのに、といった内容。
李白の詩は、「蘇武」を、
黄初平については、小川芋銭島田元旦円山応挙などの絵をご紹介しています。

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ホアン・バウティスタ・マイーノ 「羊飼いの礼拝」

ひつじ話

「羊飼いの礼拝」 「羊飼いの礼拝」(部分)

17世紀スペインのホアン・バウティスタ・マイーノによる「羊飼いの礼拝」です。プラド美術館蔵。

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ヒエロニムス・ボス 「東方三博士の礼拝」

ひつじ話

「東方三博士の礼拝」 「東方三博士の礼拝」(部分)

ヒエロニムス・ボスの三連祭壇画です。聖母子の足下に、イサクの犠牲をかたどったとおぼしき品が。
ボスについては、「荒野の洗礼者ヨハネ」を、
「イサクの犠牲」テーマ関連では、シャガールの「イサクの犠牲」などをご紹介しています。

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亡羊補牢

ひつじ話

襄王曰く、寡人、先生の言を用ふること能はずして、今、事此に至れり。
之を為すこといかんせん、と。
荘辛對(こた)へて曰く、臣聞く、鄙語に曰く、兔を見て犬を顧みるも、未だ晩(おそ)しと為さず。
羊を亡うて牢を補ふも、未だ遅しと為さず、と。
通釈
襄王は言った、「わたしは、先生のおことばを用いることができなかったばかりに、いま、このような体たらくに立ち至りました。どうしたものだろう」と。
荘辛がお答えして言うには、「臣の聞くところでは、世間の諺に、『兎を見つけてから犬を探しても、まだ遅くはない、羊を取り逃がしてから囲いを修理しても、まだ遅くはない』と申します。

問題が起きてから対策をたてる様を表す故事成語、「亡羊補牢」の由来です。戦国策・楚策から。
の襄王は放蕩奢侈を諫める荘辛を退けます。その後、秦の攻勢のために楚は危うくなり、後悔した襄王は荘辛を呼び戻します。その時の、忠臣の発した言葉が、この「羊を亡うて牢を補う」。
まだ間に合う、なにもしないよりは良い、という意味が含まれていて、単なる「あとのまつり」ではないところがポイントでしょうか。
故事成語は、この他に、肉袒牽羊多岐亡羊以羊易牛、以羊易牛関連で曲亭馬琴「烹雑の記」などをご紹介しています。

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ネフェルタリ王妃墓の壁画

ひつじ話

ネフェルタリ王妃墓壁画
神のバーと二女神
人間にバーがあるように神もバーを持つと考えられた。
イシス(右)とネフティス(左)が守護しているのは、太陽神ラーのバーである。
テーベの主神アメン・ラーは牡羊の姿で表わされる事があるが、この図は、牡羊がバーと発音されたことと関係があるかもしれない。

古代エジプトのネフェルタリ王妃墓の壁画から。
バーというのは、いわゆる「魂」のこと。角に乗ってる丸いものは太陽ですね。
アメン神関連では、象嵌用牡羊頭部ヘロドトスの「歴史」などをご紹介しています。

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