「では私の恋しいあの不思議な方の国というのはどこにありますの?
あの勇ましい方の名は何といいますの?
あの方の持っていらっしゃる国は何というところですの?
だってあの方が羊飼だなんて信じられませんもの、あなたが蝙蝠だと信じられないのと同じに。」
「(略)
あの人は自分の国の人々をあまり深く愛しています。
その人々と同じくあの人も羊飼なのです。
しかし羊飼というのがあなたの国の羊飼に似ているとお想いになってはいけません。
あなた方のはボロボロの破れ着物を引っかけて自分たちより遙かに上等な着物を持っている羊たちの番をして、貧乏の重荷を背負って呻き声を出し、主人から受取るあわれな賃金の半分を税絞りの男に払うのですから。
ガンガリードの羊飼たちは、みな生れつき平等で、いつも花の咲いている牧場を蔽うている無数の羊の主人なのです。
羊を殺すことは決してありません。
ヴォルテールの「バビロンの王女」より。
千夜一夜ふうの体裁をとった、同時代に対する風刺小説。上は、羊飼いを名乗る美青年の求愛を受けたバビロンの王女が、青年の友人である霊禽フェニクスに、その正体について尋ねる場面です。