「この世界には、たぶんあなたは御存じないと思うのですが、約三千人の羊男が住んでおります」と羊男は言った。
「アラスカにもボリヴィアにもタンザニアにもアイスランドにも、いたるところに羊男がおります。しかしこれは秘密結社とか革命組織とか宗教団体とかいったようなものではありません。会議があったり機関誌があったりするわけでもありません。要するに我々はただの羊男でありまして、羊男として平和に暮したいと願っているだけなのです。羊男としてものを考え、羊男として食事をとり、羊男として家庭を持ちたいのです。だからこそ我々は羊男なのです。おわかりでしょうか?」
よくわからなかったけれど「ふむふむ」と僕は言った。
村上春樹の羊男もの(?)の一篇、「シドニーのグリーン・ストリート」です。架空の町グリーン・ストリートで私立探偵を営む「僕」のもとに現れる依頼人、羊男の頼み事とは。
村上春樹の作品は、羊男の出てくるものとしては、「羊男のクリスマス」と「ふしぎな図書館」、「羊をめぐる冒険」を、
羊男とは無関係ながら、羊の出てくる短篇として、「彼女の町と、彼女の緬羊」をご紹介しています。