破城槌(続き)

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破城槌
最初のころは1本の巨大な木の幹を破城槌として使い、町の城門を倒すこともありましたが、これはたいていの場合、城壁にゆさぶりをかけて亀裂を作り、壁そのものを倒すことが主要な用途でした。この方法をさらに発展させて複雑な兵器に改良したのが、アッシリア人であり、さらにペルシア人、ギリシア人がそれに続きました。
これらの先人に続いたのが、ローマ人でした。破城槌は、敵が放つ石や矢にさらされているわけですから、この操作にあたる兵士の安全確保が先決問題でした。そこで、車輪のついた小屋のようなものが考案され、その表面には火がつきにくいように皮張りの頑丈な屋根をかぶせました。槌本体は、その先端部がしばしば鉄で牡羊(ベリエ)の顔の形につくられていたので、ベリエとよばれていました。

バタリングラムについて、わかりやすく説明してある本を見つけましたので、追加記事です。

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陶製の羊頭水差し

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羊頭水差し
水差しの多くは陶製で、たいてい中世特有の緑の釉がかかっていた。陶工たちはデザインに変化をつけるため、人面や動物の装飾を加えることもあった。この水差しは、注ぎ口を動物の顔形にしている。

ヨーロッパ各地に今なお残る中世の城と当時の人々の暮らしぶりをわかりやすく紹介するビジュアルブック(紹介文より引用)「古城事典」から、「台所」の章にある「陶製の羊頭水差し」です。

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温暖化抑制に羊が一役?――自治体が芝刈り機の代わりに採用

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地球の温暖化を促進させる環境ガス放出量を少しでも減らそうと、ある自治体では芝刈り機を使って敷地内の芝生を刈る代わりに、羊に芝を食ませようとしていることが伝えられた。
ノーフォーク州の自治体では、ディーゼル・エンジンが搭載された芝刈り機から放出される温暖化ガスを減らそうと、ノリッジにある本庁舎敷地内の芝生で羊を飼育することを提案。これらの羊は自治体が雇う羊飼いが管理・飼育するという。
芝生の手入れとして羊に草を食ませるというアイディアは、すでに集団墓地などで取り入れられているとされる。
しかしながら、羊が「げっぷ」することなどによって発散されるメタン・ガスは、芝刈り機から放出される環境ガスよりも量が多く、環境ガスの放出量を減らそうという点からみるとあまり効果がないとの見方もあるという。
ノーフォークの自治体では、同計画はまだ検討段階であり、実施されるかどうかは未定としている。

その芝をヒツジが食べようが食べまいが、ヒツジはげっぷを出す気がするんですが。むしろ有効利用?
げっぷ問題よりも考えるべきは落とす糞の処理だと思います。芝刈り機はさすがに出しませんし。

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コンスタンティナ廟堂 「ペテロとパウロの間に立つキリスト」

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「ペテロとパウロの間に立つキリスト」  「ペテロとパウロの間に立つキリスト」(部分)
ペテロとパウロの間に立つキリスト (通称トラディティオ・レギス)  ローマ、コンスタンティナ廟堂(現サンタ・コスタンツァ聖堂)
中央のキリストの足もとに天国の四河の流れる丘、その左右に4頭の羊。ペテロ(右)とパウロの背後に棕櫚の樹と羊の番小屋。ペテロが受け取る巻物に「主は平和を与える」の銘がみられる。

コンスタンティヌス帝の娘コンスタンティナの廟堂を飾る、アプシスモザイクです。

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ジョット 「ヨアキムの夢」

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ジョット 「ヨアキムの夢」  「ヨアキムの夢」 (部分)
 十四世紀の初頭に北イタリアの都市国家(コムーネ)パドヴァの古代闘技場(アレーナ)跡地にエンリーコ・スクロヴェーニが建立したサンタ・マリア・デラ・カリタ聖堂通称スクロヴェーニ礼拝堂は、ジョットによる壁画装飾によってあまねく知られている。聖母マリアと救世主イエス・キリストの生涯をめぐるその三十八面の連作が、ヨーロッパ中世絵画のもっとも偉大な達成のひとつをしるしているからである。
(略)
      ヨアキムの夢
  ※テキスト
 するとヨアキムはうつぶせに倒れ、朝の六時から夕方までその姿で伏していた。そこへ彼のしもべや雇人たちがやって来、なぜそんな様子をしているのかわからず、自殺しようとしているのかと思って恐怖にとらわれた。彼らはそばに近づき、苦労して地面から起こした。そして主人が目にしたという幻影について聞かされると、極度に驚愕して、それならすぐさま天使の命令に従い、奥さまのもとに急いで帰るようにと勧めた。(略)

偽マタイ伝

(略)
  ※デスクリプション
(略)
 彼らの前の斜面や亀裂部には、(略)五匹の羊が白と黒と交互しながら縦列に配置され、とりどりののんびりしたポーズによって場面の緊迫感をやわらげる。その中でヨアキムと向かい合った一匹が、やはり深々とねむっているところが面白い。これらの動物はまばらに生えた植物と共に、画面の中央で小さな円環を形成し、左右の岩山から流れ落ちる動線を受け継いで、一方から他方へと転回させる役を果たしている。と同時にこの円環はヨアキムと羊飼の間に介在する距離の大きさ、この場における両者―神に選ばれし者と俗人―の近づき難い断絶感をも、暗示するもののようである。ジョットはけして単なる彫刻的造形の画家ではなかった。

ジョット・ディ・ボンドーネによる、スクロヴェーニ礼拝堂の壁画のひとつ、「ヨアキムの夢」です。こののちに聖母マリアの父となるヨアキムが、いまだ子のないことに悩み、羊飼いたちに混じって暮らすところに、天使が妻の懐胎を告げに現れる場面。

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夏目漱石 「三四郎」

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 下宿へ帰って、湯にはいって、いい心持ちになって上がってみると、机の上に絵はがきがある。小川をかいて、草をもじゃもじゃはやして、その縁に羊を二匹寝かして、その向こう側に大きな男がステッキを持って立っているところを写したものである。
  (略)  
表は三四郎の宛名の下に、迷える子と小さく書いたばかりである。三四郎は迷える子の何者かをすぐ悟った。のみならず、はがきの裏に、迷える子を二匹書いて、その一匹をあんに自分に見立ててくれたのをはなはだうれしく思った。迷える子のなかには、美禰子のみではない、自分ももとよりはいっていたのである。それが美禰子のおもわくであったとみえる。美禰子の使ったstray sheepの意味がこれでようやくはっきりした。

夏目漱石の「三四郎」から。ヒロインの美禰子は主人公の三四郎に対して、謎かけをするように「ストレイシープ」という言葉を繰り返し、はがきにも書いてよこします。大事な場面ではあるのですが、どんな可愛らしい絵が描いてあったんだろうと想像すると、なんだかこう。

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ジャン=フェルディナン・モンシャブロン 「牧場」

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モンシャブロン 「牧場」   「牧場」(部分)

モンシャブロンは、19世紀末フランスの画家です。アカデミー的な技術に支えられた風景画が特徴。

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サンティ・ピエトロ・エ・マルチェリーノのカタコンベ

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サンティ・ピエトロ・エ・マルチェリーノのカタコンベの羊飼い
キリスト教が、最終的に信仰の自由を獲得するのは4世紀初めで、それ以前にキリスト教美術がいつ、どこで生まれ、どのように展開したのかは定かでない。ローマのカタコンベを飾る壁画群は、迫害時代のキリスト教美術を知るための、ほとんど唯一の資料といえる。
(略)
中央小円内の子羊を肩にかつぎ、杖と楽器を持つ羊飼い、安らかに草をはむ羊たちの牧歌的な田園風景は、本来は古代ローマ美術のもので、死者の魂の安らぎを願って使われていた表現である。
楽園で死者の魂を慰める羊飼いを、キリスト教徒は、間接的にキリストと信徒の姿に置きかえて愛好した。 (略) 誕生期のキリスト教美術は多くのものを当時のローマ異教美術に負っている。

ローマの、サンティ・ピエトロ・エ・マルチェリーノのカタコンベにある、天井のフレスコ画です。
羊飼いのこのポーズについては、「善き羊飼い」と、対応する福音書の章句をご紹介しています。
ところで。
話はまったく変わりますが、明日の「TVチャンピオン2」は、「羊飼い選手権」らしいですよ。21日(木)、19:57?20:54。楽しみです。

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故宮博物院の玉瑞獣

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玉瑞獣
玉瑞獣(ぎょくずいじゅう) 〔宋〕
(右) 長5.5、 (中) 長7.2、 (左) 長4.8? 台北
褐色の混じる白玉と青玉。足を曲げてうずくまった三体の瑞獣を丸彫りで別々につくったもので、二体は大きな角をもった牡羊、もう一体は角のない牝羊のようである。
清代に岩状の台座をつくったときに、この三点をセットにしたが、玉質は少しちがっている。
「羊」は「祥」に通じ、「三」は天地人の道が備わる聖数と考えられたため、「三羊」は漢代以来、めでたい言葉として大いに好まれた。

台北の故宮博物院にある羊の玉器です。

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千一夜物語 「羊の脚の物語」

ひつじ話

 いよいよ二人とも茣蓙の上に出すべきものを載せ終ると、二人は自分たちが全く同じ食糧を持っているのに気がつきました。胡麻入りのパン菓子と、なつめやしと、羊の脚の半分です。そしてやがて、その羊の脚の両方の半分がぴったりと隙間なく合うのを確かめた時には、二人は驚きの限り驚きました。そして一緒に叫びました、「アッラーフ・アクバル!〔アッラーは偉大なり!〕 この羊の脚は、死んでも焼かれても味をつけられても、その両方の半分どうしがやがて出会うように、記されていたのだな。」 次に掏摸は泥棒に訊ねました、「お前さんの上のアッラーにかけて、おお、仲間よ、この羊の脚の肉片はどこから持ってきなすったのか、伺えますかね。」
(略)
そしてやがて、問を重ねてゆくと、この二人の盗賊は、そもそも結婚の日から、そうとは知らず、同じ寝床と同じ燃え木をともにしている仲間だという確信を得るに到りました。

「千一夜物語」の一篇、「羊の脚の物語」です。ひとりの女を巡って腕比べをすることになった掏摸と泥棒のお話。上は、物語の始まりの、同じ女に自分たちが騙されていたことに二人が気づく場面です。・・・羊の脚で。

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坂木司 「仔羊の巣」

ひつじ話

「仔羊の巣」文庫版表紙
 本書の題名は『仔羊の巣』。前作は、『青空の卵』。
 物語の世界は、『卵』から『巣』へと広がりを見せています。ひきこもり探偵の鳥井君が、少しずつ外の世界へ歩き出そうとしています。(解説より)

名探偵はひきこもり、彼と共依存関係にある親友がワトソン役という、異色ミステリ三部作の2作目です。いや、しかし、このきつい性格の名探偵を仔羊呼ばわりするのはちょっと抵抗が・・・。

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新羅羊脂

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 天平勝宝八(756)年六月二一日、聖武の四十九日(七七忌)にあたって、妻の光明皇太后は東大寺盧舎那大仏に聖武遺愛の品々を献納しました。「東大寺献物帳」のひとつ、いわゆる「国家珍宝帳」に記載されたおよそ六百数十点の宝物です。
(略)
また、これらの宝物が奉納されたのと同じ日に六〇種の薬物も奉献されたました。その目録が一般に「種々薬帳」と呼ばれるものです。
(略)
 帳内薬物のうち動物性生薬は次の一〇種です。
(略)
 新羅羊脂(シラギヨウシ)
 残存していません。薬物名から新羅産の羊の脂と思われますが、中国の本草書には記載されていません。唐の医学書『千金方』によると、産前産後の滋養剤として繁用されました。

「羊木臈纈屏風」や「樹下鳳凰双羊文綾」をご紹介したことのある正倉院宝物ですが、こちらは同じく宝物ながら、羊の脂です。といっても、今となってはその正体さえさだかでないようですが。・・・途中で使っちゃったのかもしれません。薬ですし。

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南方熊楠 「十二支考」

ひつじ話

『旧唐書』に払林(正しくは林に草冠。引用者注)国に羊羔(ひつじのこ)ありて土中に生ず、その国人その萌芽を伺い垣を環らして外獣に食われぬ防ぎとす。
しかるにその臍地に連なりこれを割けば死す、ただ人馬を走らせこれをおどろかせば羔(こひつじ)驚き鳴きて臍地と絶ちて水草を追い、一、二百疋の群れを成すと出づ。
これは支那で羔子(カオツェ)と俗称し、韃靼(だったん)の植物羔(ヴェジテーブル・ラム)とて昔欧州で珍重された奇薬で、地中に羊児自然と生じおり、狼好んでこれを食うに傷つけば血を出すなど言った。
(略)
十八世紀の仏国植物学大家ジュシューいわく、いわゆる植物羔(ヴェジテーブル・ラム)とは羊歯の一種でリンナースが学名をポジウム・バロメツと附けた。その幹一尺ほど長く横たわるを四、五の根あって地上へ支え揚ぐる。その全面長く金色な綿毛を被った形、とんとシジアの羔に異ならぬ。それに附会して種々の奇譚が作られたのだと(『自然科学字彙』四巻八五頁)。
予昔欧州へ韃靼から渡した植物羔を見しに、巧く人工を加えていかにも羊児ごとく仕上げあった。孔子が見たてふ墳羊談もかようの物に基づいただろう。

南方熊楠による、バロメッツ、または植物羊についての一節です。熊楠は、これらの伝説を「真にお臍で茶を沸かす底の法螺談」といい、その正体を羊歯であるとしています。孔子の墳羊の話がこれに結びつけられているのも、興味深いところです。
この植物羊のお話は、澁澤龍彦「幻想博物誌」「和漢三才図会」マンデヴィル「東方旅行記」ボルヘス「幻獣辞典」タカワラビの根茎レオ・レオーニ「平行植物」「幻想図像集 怪物篇」などで、ずいぶん繰り返してしまっているのですが、いまだに不思議が尽きません。

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幸田露伴 「羊のはなし」

ひつじ話

 もつともひつじは夙くから用ゐられた語で、千載集の十八に出てゐる「今日もまた午の貝こそ吹きつなれひつじのあゆみ近づきぬらし」といふ赤染衛門の歌は誰しも知つてゐる名高い感愴の一章で、摩耶經の、譬へば栴陀羅(せんだら)の羊を驅つて屠所に就かしむるが如し、歩ゝに死地に近づく、人命は復此に過ぐ、といふ本文を踏まへて、午の刻の貝を吹くのを山寺で聞いて、羊の歩近づきぬらしと、光陰の矢の如く速く、人生の流るゝが如くなるを感じたあまり、午より先へ一ト足踏み出して歌つたところに味のある吟である。

「羊の歩み」について、幸田露伴の随筆「羊のはなし」から、さらにもう少し。

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ジャン=フェルディナン・シェノー 「バルビゾンの羊飼い」

ひつじ話

シェノー 「バルビゾンの羊飼い」

「夕暮れ」「川のそばの羊飼い」をご紹介したことのある、ジャン=フェルディナン・シェノーをさらにもうひとつ。「バルビゾンの羊飼い」です。

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