キリストの紋章

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キリストの紋章
今日新しい紋章学が開拓しているもっとも豊かな研究領域は、架空の紋章の分野であろう。これは、中世と近世の人々の想像力が、実在しなかった人物や紋章発生以前に生きていた人物に与えた紋章をさしている。
(略)
中でもキリストの紋章は、早くからいくつもの史料に見ることができる。そこには過越の仔羊や、受難のさまざまな道具が描かれているのであった。

キリストの紋章が描かれた15世紀の写本です。紋章は12世紀に成立したとされていますから、想像上のものですね。

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ピーテル・ブリューゲル 「イカロスの墜落のある風景」

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ブリューゲル「イカロスの墜落のある風景」 「イカロスの墜落のある風景」(部分)

ピーテル・ブリューゲルオウィディウスの転身物語にあるイカロスの悲劇を題材に描いた、「イカロスの墜落のある風景」です。探さなければ見つからないほどに小さいイカロスに対して、中央に農民や羊飼いが描かれているのが特徴です。

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「牧場の朝」

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  牧場の朝
ただ一面に立ちこめた
牧場の朝の 霧の海
ポプラ並木のうっすりと
黒い底から 勇ましく
鐘が鳴る鳴る かんかんと
もう起き出した小舎小舎(こやごや)の
あたりに高い 人の声
霧に包まれ あちこちに
動く羊の幾群(いくむれ)の
鈴が鳴る鳴る りんりんと
今さし昇る日の影に
夢からさめた森や山
あかい光に染められた
遠い野末(のずえ)に 牧童の
笛が鳴る鳴る ぴいぴいと

「牧場の朝」は、新訂尋常小学唱歌の一曲です。舞台となった牧場は、福島県の岩瀬牧場。ひつじ度は、あんまり高くなさそうですね・・・。

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荒子観音の円空仏

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円空仏 菩薩像 菩薩像 頭部
菩薩とした像は、前頭部に羊様の動物の顔を彫り、左手に宝珠形にした龍を持たせた、まことに不思議な像である。この像も又、本来の尊名はどうであったのか判断に苦しむ。

 行動と文化研究会『行動と文化』13号抜刷 「荒子観音の円空仏」 

名古屋にある荒子観音寺は、前田利家の帰依と、千体以上にもなる円空仏の所蔵で知られています。独特のフォルムのために正体不明の仏様が多いのですが、こちらの菩薩像(仮、になるのでしょうか)もそのようです。
なお、荒子観音では、毎月第二土曜日午後一時?四時に、円空仏の拝観日をもうけています。木彫教室も開かれています。ご縁がありましたら、ぜひ。

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バタリング・ラム

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Ram ― <雄羊>
Ramは螺旋状に曲がった角が特徴的な羊の雄である。雄羊はこの角で、敵と見れば相手構わず突っかかってゆく。 (略) 古代人は、このような角で突く雄羊の姿を見て、建物の門や壁やドアを破壊する破城槌(batterring-ram)を考えついた

英文学関係の事典で「雄羊」をひいてみました。
好戦的な雄羊については、「Zidane’s Pet」を称するたいへんな映像をご紹介してますが、古代人(古代ローマ人のことかと)の破城槌は、門にぶつかる先端が羊の頭の形をしていたらしいです。牡羊って、そこまで・・・?
ちなみに、破城槌とは下のようなものです。

破城槌

あと、塩野七生「ローマ人の物語」に、「牡羊(アリエス)」と呼ばれる破城槌が出てきますので、そちらも引用。

「ローマ人の物語 ユリウス・カエサル ルビコン以前」 挿絵
この要害の地に、敵はこもって出てこない。現状を打破するにはローマ軍の技術力を活かすしかないとカエサルは考える。工兵に一変した軍団兵たちによる、大仕掛けな攻城兵器づくりがはじまった。「移動回廊」がつくられ「移動塔」がつくられ、「牡羊」と呼ぶ破城槌もつくられた。
(略)
だが、カエサルは答える。「わたしが敵を許すのは、その敵に許される資格があるからではなく、それがカエサルのやり方であるからだ。もしも『牡羊』が城門をたたく以前に降伏の申し出がなされていたのであったら、武装解除なしの降伏でも受け容れていただろう。

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「ギリシア哲学者列伝」のエピメニデス

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彼はクレタ人でクノソスの生まれであった。もっとも髪を長く垂らしていたので、姿はクレタ人のようではなかった。
彼はある日、父親の言いつけで羊を探すために原へやられたが、昼頃、道からそれてある洞穴のなかで眠りこみ、そのまま五十七年間眠りつづけた。
そのあと、彼は起き上がって羊を探しに行ったが、自分ではほんの短時間眠ったつもりだった。しかし羊は見つからないままで原へ行ってみると、何もかもが変わっており、その土地も他人の手にわたっているのを知った。
そこで彼はすっかり困惑して町へ引き返した。そしてそれから自分の家へ入って行くと、彼が誰であるか知りたがっている人たちに出会ったが、ついに彼は、いまはもう老人になっている弟を見つけて、その弟から事の真相をすべて知らされたのであった。

ディオゲネス・ラエルティオスの「ギリシア哲学者列伝」は、ギリシアの偉大な哲学者たちの人間味のあるエピソード集ですが、その中から、第一巻十章「エピメニデス」を。・・・黄初平

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新羅の十二支像

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伝景徳王陵十二支像、未像 伝金庾信将軍墓十二支像、未像
韓国古代彫刻史の主流は佛教彫刻である。ところがこれに次ぐ重要なもう一つの彫刻の流れが統一新羅以来、高麗時代をへて李朝に至るまで連綿と続いた陵墓彫刻である。勿論陵墓制度は統一新羅が安定するにつれて、中国の影響の下で成立したのではあるが、陵墓の封土に護石をめぐらし、その護石面の空間に十二支の形像を浮彫して、多様でしかも華麗な偉容をあらわすのは韓国の創案で、時代的意匠や造形意志によって展開してきた。

韓国の、統一新羅時代の陵墓彫刻です。最初が伝景徳王陵、つぎが伝金庾信将軍墓のものです。

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蘇武牧羊

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 蘇武について、『十八史略』から紹介する。
 武帝の天漢元年、中郎将蘇武を遣わし、匈奴に使いせしむ。単于(ぜんう)之を降さんと欲す。武を幽して大窖(たいこう)の中に置き、絶えて飲食せしめず。武雪を嚼み栴毛(せんもう)と併せて之を咽む。数日なるも死せず。匈奴以って神と為し、武を北海の上の人無き処にうつし、羝(てい)を牧わしむ。曰わく、「羝乳せば乃ち帰るを得ん。」と。
 武帝の天漢元年(前100)、中郎将の官にある蘇武を派遣し、匈奴に使いさせた。単于は彼を降伏させようと思った。しかし、匈奴に降伏しないため蘇武を大きな穴蔵に閉じこめ、まったく飲食させなかった。しかし、蘇武は雪と毛織物の毛を嚼み、いっしょに飲み下して食をつないだ。だから数日しても死ななかった。匈奴は蘇武を常人ではなく神であろうと思い、蘇武を北海のほとりの人の住まない場所に移し、雄羊を飼わせた。そして言うには、「子を産むことのない雄羊が子を産んだら帰してやろう。」と。

蘇武は、囚われの身にありながら本国への忠節を全うしたことで知られる、前漢の武人です。帰国に至る長い期間を羊飼いとして過ごしたことから、「蘇武牧羊」という成語が生まれました。
こちらの「漢詩の旅2 シルクロード」には、李白のうたった「蘇武」が収録されていますので、下に。

蘇 武 在 匈 奴    蘇武 匈奴に在り
十 年 持 漢 節    十年 漢節を持す
白 雁 上 林 飛    白雁 上林に飛び
空 伝 一 書 札    空しく伝う 一書札
蘇武は匈奴に捕らえられること十年、
その間、漢節を手放さなかった。
白い雁が、天子の狩り場、上林苑に飛来し、
雁の足に結ばれていた一通の手紙によって蘇武の生存が判明した。
牧 羊 辺 地 苦    羊を牧して 辺地に苦しみ
落 日 帰 心 絶    落日 帰心 絶ゆ
渇 飲 月 窟 水    渇しては 月窟の水を飲み
飢 餐 天 上 雪    飢えては 天上の雪を餐す
蘇武は羊の放牧をしながら、辺境の地で苦しみ、
夕日を見ては、漢への帰還の夢も絶えてしまっていた。
のどが渇いては、月の洞窟の水を飲み、
飢えては、大空から降る雪を食べて命をつないだ。
東 還 沙 塞 遠    東に還って 沙塞 遠く
北 愴 河 梁 別    北に愴む 河梁の別
泣 把 李 陵 衣    泣いて李陵の衣を把って
相 看 涙 成 血    相看て 涙 血を成す
匈奴から東の都に帰ることになったが、沙漠の漢の砦は遠く、
北を振り返っては、川にかかる橋の付近で別れた李陵が痛ましく思われる。
泣きながら匈奴に残る李陵の衣服を握って、
互いに見合いながら血の涙を流した別れが、いつまでも思い出される。

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「トリフィド時代」

ひつじ話

私は、今では、やつらを憎みはじめていた。それはやつらに腐肉を食う習慣があるからだけではない―やつらは、ほかのことはさしおくとして、なによりもまず、われわれの災厄を利用して、それによって繁栄できるように思えたからだった……。
(略)
日がたけて行くにつれて、私の孤独感はさらに深まった。私は丘や高台にでるたびに、車を停めて、双眼鏡で見えるかぎりの土地の広がりを点検した。
(略)
また別のときは、遠くの丘の中腹で、白いものがひらひら動いているのが目にとまり、双眼鏡をそちらにむけてみると、五、六頭の羊が泡をくって逃げまわるのを、一本のトリフィドがつづけざまになぐりつけているのだとわかったが、毛深い羊の背中のこととて、なんの効き目もないらしかった。そして、どこに行っても、生きている人間の気配は見つからなかった。

「トリフィド時代」は、ジョン・ウィンダムの破滅ものSFです。歩きまわり、人をどつき倒し、腐肉を食らう恐怖の食人植物トリフィドと戦う人類の姿が描かれるわけですが、そしてこちらは、追いつめられた主人公の田園地帯での1シーンなのですが、・・・・さりげなく、羊が最強です。

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羊と資本とイタリアルネサンス

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投資の「資本」capitalという言葉は、羊などの家畜の頭を意味する‘caput’を語源とするcapitaleから来ている。この言葉が出来てからおそらく1000年以上も経ってから、「羊の頭数」capitaleが羊の毛の加工の仕事に投下されたのだった。
(略)
十二世紀フィレンツェでは、職業別の労働組合(アルティ arti)が作られた(略)が、そのアルティの中では、羊毛加工生産に関する組合が大半を占めていた。(略)彼ら自身の手で原毛と染料を輸入し、それを自らの手で完成品に仕上げて売り出す、という大規模な組織を組み上げて巨万の富を作った。(略)羊毛加工の産業が世界で最初の「投資家」というものを生み出し、ついで世界で初めての「銀行」業を誕生させたのであった。
(略)
十三世紀後半になると、これら資本家たち、つまりブルジョア市民たちが(略)蓄積した自分の富を都市の建物や広場の美化に投下しはじめた。こうして200年後には、この町は「花の都」と称せられるようになり、すぐれた芸術家たちがここに生まれ集まって、すばらしい作業の成果をこの町に残すことになった。(略)羊毛加工の産業や、そのための融資や投資で莫大に儲けたメディチ家などの富豪の富と見識とによって、十四世紀から十五世紀にかけて強力にイタリア・ルネッサンスの気運を押しひろげていって新しい文化を華麗に花開かせたのである。

ルネサンスは、ひつじの力で支えられていたのです。たぶん。

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ゴッホ 「羊の番をする女」

ひつじ話

ゴッホ「羊の番をする女」
ジャン=フランソワ・ミレー「女の羊飼い」に拠るジャン=バティスト・ミレーの木版画

フィンセント・ファン・ゴッホは、ジャン=フランソワ・ミレーを熱心に模写したことで知られています。ずいぶん前に二者の「羊の毛を刈る人」を並べてご紹介したことがありますが、こんどは「羊の番をする女」を。最初のものがゴッホ、次がミレーの「女の羊飼い」を版画にしたもの。ゴッホは、この木版画を手に入れて参考にしたのですね。

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「頭突き羊の物語」

ひつじ話

 そのころちょいちょい、ヴァージニア鉱山の野郎どもがぼくに向かって、おまえぜひジム・ブレーンって男に逢ってみろ、そして奴のおじいさんのおいぼれの頭突き羊の物語ってのを語ってもらえよ、そりゃ胸のわくわくする話だぜ、とよくそういったもんだ。
(略)
 ぼくが席をみつけるが早いか、ブレーンがいった。
「思えば二度とあのころはこねえだろうな。あいつ、そりゃイカス頭突き羊だったな。あんなイカス羊が二度とこの世にいるもんか。おれのじじいが遠路イリノイから連れてきたんだけどよ―イエーツって野郎から分けてもらったんだ―ビル・イエーツってな―ほれ、おめえらもうわさには聞いてるだろう―奴のおやじは教会の幹事でよ―洗礼派ってとこよ―それから奴だって、大した働きもんでな。『感謝のイエーツ』といやあ、おめえ、奴に先手を打たれたくねえんだったら、朝もはよから起きていなくっちゃ追いつけねえって、というほどの働きもんよ。おれのじじいが西部に渡ってくるとき、グリーンの一家を口説いちゃって、いっしょに幌馬車を組んだがいいってすすめたのもこの野郎よ。そこであのセート・グリーンってのは、一族の花だったんじゃねえのかな。その嫁さんはウィルカソン―サラ・ウィルカソンてんだけどよ―これがまたええ子でな―
(以下ラスト近くまで略)
 ジム・ブレーンはおもむろに、おもむろに、夢かまぼろし―首をこっくり、こっくり、一、二、三回やると―安らかに首うなだれ、とうとう、すやすやと眠ってしまった。野郎どもの頬から、涙がとめどもなく流れている―こみ上げる笑いをこらえようとして窒息しそうなんだ―
(略)
そのおじいさんの頭突き羊にどんな運命がふりかかったかは、今日にいたるもおぼろの神秘だ。それを突きとめたひとはまだいない。

マーク・トウェインの短篇小説、「頭突き羊の物語」です。つまり、主人公(と読者)はひっかけられたのですね。それは良いんですが(良いのか?)、なんで羊? そして頭突き?
ちなみに、この「頭突き羊の物語」について、筒井康隆がこのような分析をしています。

この短篇の独自性はその着想にある。現実にもしばしば起こるこの「話の横滑り」は、ギャグとしても比較的よく見聞するものだが、これを最後まで横滑りしたままで終らせ、読者の願望不充足をも笑いに換え、それを一篇の短篇小説に仕立てあげようとは、それまで誰も思わなかったに違いないのである。

そうなのかもしれないけど・・・そうなんだろうけど・・・この不充足をどこに持ち込めば良いのか。なぜ羊ー!

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金羊毛勲章

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ダイヤとルビーの金羊毛勲章 ザクセン侯の金羊毛勲章
左 →  ダイヤモンドとルビーをセットした黄金の羊毛勲位章、1760?70年頃、レジデンツ博物館
右 →  ダイヤモンドとルビーをセットしたザクセン侯の黄金の羊毛勲位章、1740年、ドレスデン国立美術館

fleese
胴にベルトをかけて吊り下げられた頭と四肢のある羊毛の図形。羊毛産業の盛んな都市の紋章などに好んで使われるcharge(図形)であるが、元はギリシア神話のGolden Fleeceに由来する。英雄イアーソン(Iason、英名Jason)が探し求めて手に入れたのがGolden Fleeceであり、1492年フランスのブルゴーニュ公フィリプがその名を採って創設したのが金毛騎士団であり、それがオーストリア大公国の騎士団ならびにその最高勲章となって、Golden Fleeceはヨーロッパ全土に知られる存在となった。

ブルックスブラザーズの商標をご紹介したときに少しだけ触れた金羊毛騎士団の勲章です。ギリシャ神話についてはこちらを。
ブルックスブラザーズのは羊の中に身がつまってそうですが、上のように毛皮だけがだらんとなってるのが正しい姿のようです。

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シャルル=エミール・ジャック 「牧場の羊」

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ジャック 「牧場の羊」

「羊飼いと羊の群」、「羊飼い」、「夕暮れの羊飼いと羊」「森の中の羊の群れ」「羊飼いの少女」をご紹介したことがあるシャルル=エミール・ジャックをもうひとつ。「牧場の羊」です。
京都市美術館で3月14日(水)から5月13日(日)まで開催される大エルミタージュ美術館展で現物が見られます。お近くならばぜひ。

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ジャン=フランソワ・ミレー 「秋 : 積み藁」

ひつじ話

ミレー「秋 : 積み藁」

ミレーの「四季」をテーマにした最後の連作から、「秋」にあたるものを。積み藁が巨大です。
ミレーに関しては、「羊飼いの少女と羊の群れ」「羊飼いの少女」「夕暮れに羊を連れ帰る羊飼い」などをご紹介しています。あと伝記から、ミレーの羊飼いに対する認識などのお話も。

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