「このテーマについては」とボルヘスはさらに言う、「抜き取ると人間のような叫び声を発するマンドラゴラや、傷つけられた幹から血と言葉とを同時に出す、ダンテの『地獄篇』第七圏における悲惨な≪自殺者たちの森≫をも思い出しておこう」と。
ボルヘスは書いていないが、私はさらに、この系列に属する植物の怪異として、中世のペルシア詩人の作品によってヨーロッパに伝えられた、支那海の果てにあるというワクワク島の伝説をも付け加えなければならないと思う。
ワクワク島では、イチジクに似た植物の果実から、羊ではなくて、人間の若い娘が生じるのである。果実が熟すると、娘は完全な肉体を揃えて、髪の毛で枝からぶら下がり、やがて熟し切ると、「ワクワク」という悲しげな叫び声をあげながら、枝から落ちて死んでしまう。
バロメッツ、植物羊、またはスキタイの羊と呼ばれる幻想動物については、マンデヴィル「東方旅行記」やボルヘス「幻獣辞典」、和漢三才図会などにからんで何度かお話してますが、こちらは澁澤龍彦のエッセイです。マンデヴィルやボルヘスのほか、オデリコの『東方紀行』、ヴァンサンの『自然の鏡』、南方熊楠の『十二支考』等々を渉猟し、最後にボルヘスによる「植物界と動物界とが結びついている」という一文について、考察がなされています。