遠い遠い昔のこと、以前はハッケル山とハールツ山地とつながっていたブランツレーベンの森の縁に、どこから来たのかも何者なのかも分らない一人の男が住みついていた。
爺さんという名で皆に知られ、別に騒がれもせずよく村々にやって来ては助力を申し出、引き受けた仕事は人々の満足いくようにやってのけた。
仕事は特に羊の番をすることが多かった。
さてナインドルフの羊飼いメレのところの羊の群れで、一匹の可愛らしいまだらの子羊が生れた。
するとこの誰なのか分らない男は、羊飼いメレにその子羊をくれるようにしつこく頼んだ。
メレは子羊を手放すつもりはなかった。
だが羊刈りの日メレは爺さんが必要になり力を貸してもらった。
帰ってきてみると、なるほどすべてがきちんとしており仕事もやってあったが、爺さんも子羊も見当たらなかった。
それからずいぶん長い間、爺さんがどうなったか誰にも分らなかったが、とうとうある時、カッテンの谷で羊に草を食わしているメレの前に突然姿を現し、嘲るように「今日はメレさんよ、あんたのまだらの子羊がよろしくとのことだぜ」と叫んだ。
激怒した羊飼いは牧杖をつかむと、仕返しをしてやろうと思った。
と突如、誰か分らぬこの男は姿を変え、人狼となりメレに飛びかかってきた。
グリム兄弟による『ドイツ伝説集』より、羊飼いが退治した人狼の墓標とされる大岩についての一章「人狼岩」を。
グリム兄弟は、グリム童話「子羊と小ざかな」をご紹介しています。