「地上に生きるもののなかで、敵を追いはらう方法や、身を守る方法を知らないものはいない。だがわれわれは、あらゆる生き物のなかでもっともみじめだ。木の葉がそよとしただけで、ちぢみ上がる。兄弟たちよ、こんな生き方をつづけてなんにでもびくついているくらいなら、井戸に身を投げた方がましではないか」
そこで苦しみ悩む野うさぎたちは長老のあとをとぼとぼ歩き、井戸に向かった。途中でかささぎに出会うと、
「どうしたの、うさぎさん?」 かささぎはたずねた。
(略)
「まあ、なんてばかなことを! さあ、藪の陰に隠れなさい。もうすぐ羊飼いの少年が羊に水を飲ませにやってくるから。少年がきたら全員で飛び出して、四方八方に走ってごらんなさいな。なにが起こるかわかるから。あなた方だけがこの世でみじめな動物でないと、わたしは思うわ」
かささぎはこういうと、飛び去って行った。
野うさぎたちは藪の陰に隠れ、羊が近づくと飛び出して、四方八方にぴょんぴょん跳びはねながら駆け出した。そしてふり返ってみると、羊たちが驚いて、群れをなして逃げて行く。羊飼いの少年ときたら、必死になって羊の群れを止めようとして、乱暴に鞭をふりまわしているではないか。
モンゴルの民話集より。そんなわけで、自分たちより弱い生き物がいることを知った野うさぎたちは、喜びのあまり、笑いすぎて上唇が裂けてしまったのです。羊って、そこまで。