羊 ヰリアム・エーィチ・デーヴィス
昔、私がボルティモーアに居たとき、
ひとりの男がやつてきて叫んだ、
「来ないか、わしらは千八百頭の羊を載せて火曜日に出帆するんだが。」
「若いの、おまへが一緒に来て呉れりや五十シリングやるぜ。
千八百頭の羊をボルティモーアから
グラスゴウの町まで届けるんだ。」
かれは私に五十シリング呉れた、
私は千八百頭の羊をつれて出帆した、
船は間もなく港の口を離れ
深い大海へと乗りだした。
海の第一夜には
羊はこゝろ静かにしてゐた。
二晩目になると、かれらは恐れて啼いた、─
風の中に草の匂いがしないので。
可哀さうに、かれらは緑の野原を鼻で慕ひ
私が眠られぬほど高く啼きつゞけた、
五万シリング呉れよとまゝよ、
二度と羊と船出はせまい。
西條八十の訳詩集「白孔雀」より、ウィリアム・ヘンリー・デイヴィスの「羊」(原題「Sheep」)を。